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  • 投稿日時:2023/06/26

    コロナ感染後2ヶ月から咳が止まらないという方が当院のオンライン漢方診療に受診されました。その方は別の方のご紹介だったのですが、今日そのご紹介くださった方から、「あの人はそちらの漢方薬を飲んだら2ヶ月続いた咳が三日で止まった」と大変驚き、喜んでいたというのです。念のため先ほどご本人にも電話して、ご紹介いただいた方からこう聞きましたがと伺ったところ、「はいそうです。劇的に止まりました。大変助かりました」と言われます。

    こういうのを疑り深い医者は「その人は2ヶ月咳が続いたのだから、ちょうど自然に治るタイミングだったかもしれないじゃないか」と言うのですが、どうですかねえ。普通に考えて、そう言う可能性を主張するのは、ちょっと無理っぽいだろうと思います。そう言う可能性を私も完全には否定しませんが、まあ可能性としては低い。それよりは漢方が効いたと判断するのが常識的でしょう。

    使ったのはツムラのエキスにもなっている五虎湯(ゴコトウ)をベースに、カロコンとバクモンドウと言う生薬を加えたものです。配合比は明かせませんが、バクモンドウは一日30g使いました。ツムラに麦門冬湯(バクモンドウトウ)って言う咳止めがありますけど、あれにはバクモンドウが1日分で10gしか使われていません。それでは効かないです。30gは私としては最低量でした。しかもバクモンドウはこの煎じ薬処方の中では補助的な役割でしかないです。主役は五虎湯でが、その生薬の配合量や比率も、ツムラのエキスとは全く違います。そもそも漢方はその人の症状やその程度に応じて生薬の量や比率を変えるのが本来のやり方なのです。もし長引く咳でお困りの方は、当院の漢方内科、あるいはオンライン漢方診療をどうぞ。

     

    なおこの話は、ご本人の了解を得て掲載しております。

  • 投稿日時:2023/06/24
    サービス付き高齢者向け住宅、通称「さこじゅう」で働くヘルパーが、職場の上司の対応が不満で体調が悪いと受診してきた。ヘルパー2級でまだ二年目だそうだ。一年目は日勤が主で、その頃は割と問題なく働けていたが、二年目になったら夜勤が多い部署に廻された。そうしたら夜勤帯での仕事がうまく出来ないという。

    施設としては、まず初年度は日勤で仕事を覚えさせ、二年目になったから夜勤もやらせたという事だろう。だが日勤と夜勤とでは仕事の中身が全く違う。スタッフの数自体少ないし、急変対応を迫られるのも夜勤帯が多い。彼女にはまだ無理があったようだ。

    上の人には相談した?と訊いたら、「リーダーに相談したら自分で考えなさい、としか言ってくれないんです」という。うーん、そうか、リーダーの上は?と訊くと「施設長は自分は管理しかしていなくて現場は分からないからリーダーに訊きなさいと言うんです」というわけだ。そうか、それはリーダーの対応にも問題があるね、と私は頷いた。あなたはまだ二年目で、夜勤は今年からだから、リーダーはあなたが困っていたらちゃんと指導してあげる必要があるよ、と言った。そうしたら本人曰く「リーダーは自分は夜勤しないんです。それなのに夜勤している私には何も教えてくれなくて」という。
    そこでちょっと彼女には一から教えてあげないといけないな、と気がついた。

    実は僕はこうして心療内科もやっているけど、もともとは老年科医だ。高齢者医療が専門だから、福祉介護の現場はよく知っている。そういう介護施設のリーダーは、日勤の通常業務をこなしながら、スタッフの指導もしなくちゃいけないし、利用者家族の対応もしなくちゃいけないし、役所やケアマネとも連絡を取らなきゃならないし、書類仕事は山のようにある。リーダーも夜勤しろというのは無理なんだよ。

    彼女は渋々頷いた。

    確かにリーダーがきちんと指導してくれないのはリーダーにも責任がある。だけど実はリーダーも含めて、介護施設のスタッフはあなたもそうだが、みんな最小限の人数でギリギリ仕事をこなしている。わかるだろう?

    これには彼女も深く頷いた。

    君は今自分が大変だと思うだろうが、「さこじゅう」は実はまだましな方だ。利用者は少人数だし、割とお金に余裕がある人しか入らない。介護度も高くない。これが特別養護老人ホームとか老健施設とかになれば、一施設通常利用者100人。介護度は遙かに重い。各階をワンフロアとしてヘルパーが日中ワンフロアにいても三人。看護師はワンフロアに一人だ。夜は看護師一人か、看護師がいない施設もある(夜間看護師がいない施設では看護師はオンコール)。老健の施設長は医者だけど、老健の医者の給料は病院よりずっと安いから、引退した医者が楽な仕事としてやっているだけで、夜間休日は一切対応しない。そういう所の介護士の仕事は、あなたがいるさこじゅうとは比べものにならないぐらいきついよ。何故こうなっているか分かるかい?

    彼女、戸惑う。

    それはね、そもそもこの日本という国が、介護なんてものは余計な出費だ、老人施設などというのは安ければ安いほど良いのだと考えているからさ。あなたの給料も安いだろうけど、その安い給料で、かつ最低限のスタッフで廻さないと施設が経営出来ない仕組みになっている。この国は、介護だ福祉だには、なるべく金を掛けたくないんだ、金持ち相手は別にしてね。わかるかい?

    彼女、ついに深く頷く。「分かります」と言った。

    あなた23ですよね。選挙権がある。選挙って行ったことある?
    本人、首を横に振る。

    選挙に行かなければ、政府は「ああ、国民は今のやり方で良いと思っているんだ」と考えるんだ。今多くの人が選挙に行かない。そうすると、何時までも介護福祉はこのままなんだよ。

    彼女は黙ってしまった。政府が介護福祉を安上がりにあげようとしていることは理解出来たようだが、「選挙」という言葉には抵抗があるらしい。

    仕事は続ける?職場変わりますか?と訊いたら、今の仕事は辞めたいから診断書を書いてくれと言い出した。
    ほらほら、またあなた欺されてる。医者の診断書が必要なのは就職する時と休業する時だけだ。辞めるのに診断書って要らないよ。と言ったら彼女、びっくりした顔をした。

    だからね、この国では働く人必要なことは、学校で何一つ教えないのさ。その方が偉い人たちには都合が良いからね。
    彼女はしばらくうつむいて黙っていたが、「はい。でも診断書貰ってこいと言われていて」と言った。

    そこで診断書を書き、職場の人間関係で反応性うつ病となっているので職務継続は不可能と考えると書いた。薬は出さなかった。だってその子、退職したらたちまちよくなるんだから。

    なかなか、今の若い子は、この社会の矛盾の真っ只中で振り回されながら、今自分が何故困っているのか、それを変えるには何をしなければならないのか納得させるのは難しい。「選挙」とか「投票」という言葉に本能的拒否反応を示すほど洗脳されている。実にこの国の教育は素晴らしい。この国は形の上で選挙権はあるが、実は国民が選挙権を行使しないように仕組んでしまった。たいした腕前だ。

    本当は60分以上話をしたから通院精神療法初診5400円取れるんだけど、どうせお金はないんだろうから、30分という事にして3400円にしておいた。私も経営者としてこんな甘い事じゃいけないんだが、まあ診断書作成料3000円はもらえたからね。

    一開業医、町医者が出来ることには限界がある。しかし私は出来ることをやっている。この子達がいずれ社会の中堅になっていくんだから。
  • 投稿日時:2023/06/23
    発熱外来にきた男性、2週間咳が続くという。もともと喘息がある。聴診すると右背部に喘息の雑音が入る。喘息の薬は何かと聞いたら、ベータ刺激剤の吸入だけだと。サルタノールという奴だ。その先生はこれしか出さないのかというと、出さないという。そのほかには風邪ひくと風邪薬を貰うだけだというから「その医者にかかっていたらあなた死ぬから。医者の仁義には欠けるけど、あなたの治療はこれから私がやる。仁義に欠けても患者の命には変えられない」と言って患者取ってしまった。「それから風邪ひいてもあなたは風邪薬飲んじゃダメだ。死ぬよ」と言って「この薬だけは飲んでいい」とソランタールを渡した。向こうにご報告をするつもりはない。だってもし何か向こうの医者に書くとしたら、悪口雑言の羅列にしかならないからだ。七十代の内科医だそうだが、やっぱり医者も七十代になると色々、ダメだ。

    解説。喘息の基本治療は吸入ステロイドです。ベータ刺激剤は一時的な気道拡張作用がありますが、気道の炎症を抑えることはないので、発作のたびにベータ刺激剤で誤魔化していると、そのうち炎症が進み大発作を起こして時には即死します。また喘息患者が一般の風邪薬に含まれる解熱鎮痛剤NSAIDSを飲むと喘息発作を起こすのは有名です。喘息患者が飲んで良い解熱鎮痛剤はごく限られます。昔から定評があるのはソランタールです。薬局の風邪薬を買って飲んでもダメです(葛根湯など漢方の風邪薬はOIK)。

    素人が知らないのは仕方がないとして、喘息の患者にステロイドの吸入薬を出さず、風邪ひいたら風邪薬を出す医者というのは患者殺したいのかって話です。
  • 投稿日時:2023/06/19
    今日、膀胱炎で他のクリニックから抗生剤(抗生物質)を出されているけど直りませんという患者さんが来ました。何が出ていますかと見せてもらうと、メイアクト。思わず内心舌打ちしてしまいました。メイアクトという抗生剤は、確かに抗生剤として売られてはいるのですが、効きません。全然、効かないのです。理由は簡単、腸管からほとんど吸収されないからです。昔は国が薬を認可するときに、腸管からきちんと吸収されるかを確認していなかった時代があり、その頃認可された薬の中にはこういうものがあります。抗生物質で言うと、「セフゾン」「フロモックス」「メイアクト」「バナン」「トミロン」(いずれも商品名)といった名前の経口抗菌薬です。これらは腸管から吸収されないので、効きません。もしこう言う抗生剤が出されたら、その医者は無知ですから、よその医者に行きましょう。石巻周辺の方なら当院へどうぞ。そもそも抗生剤が必要な状態かどうかも含めてきちんと診察、検査します。これ知らない医者は結構、います。かなり普通に出されています。困ったものです。
     
  • 投稿日時:2023/06/16
    今日のオンライン漢方診療に受診してきた人の話を聞いて、私は呆れかえった。40代女性、色々症状があって地元の漢方内科に掛かっているがよくならないのでこちらを受診したという。

    どんな症状でどんな治療を受けていますか、と訊いた。
    「慢性のかゆみと鼻水で葛根湯加川芎辛夷が出ています」。
    「雨の前の日になると身体や気分が重いので五苓散を貰っています」
    「生理の一週間前からイライラが止まらず子供に当たり散らしてしまうので加味逍遙散を貰っています」
    ・・・。
    「アレルギーの検査はしたことありますか?」
    「ありません」
    「鼻水ですか、鼻が詰まるんですか」
    「鼻水です」
    「そういう漢方薬を飲んで効いていると感じますか?」
    「五苓散だけは効いている感じがします」

    その「漢方内科」の医者のやっていることは、「エビデンス漢方」のハウツー本にある「この症状にはこの漢方」を足しただけだ。いや、「エビデンス漢方」の著者だって流れる鼻水に葛根湯加川芎辛夷は推奨していないかもしれない(読んでないから推測)。その漢方内科の医者がこの人をどう弁証し、どういう治療方針を建てているのか、この処方からは全く分からない。と言うか、明らかに弁証などしてない。単なる対処療法だ。これなら鼻水にエピナスチン、頭痛にカロナール、生理前の不調にメイラックスを出したって同じことだ。漢方薬は出しているが、これは漢方治療では無い。

    これで漢方内科を名乗っているんだそうだ。漢方内科を名乗るほどなら、おそらく例の「日本東洋医学同好会認定漢方専門医」の資格ぐらい持っているんだろう。知らんけど。

    「まずアレルギー検査を受けて下さい。鼻水、かゆみはそれからです。今日はともかく生理前のイライラに効く薬だけ煎じ薬で出します」と言って大柴胡湯去大黄を生理前一週間だけ飲むように指示して出した。足の冷えなどもあったが、まずは「先急後緩」である。子供が被害を受けているからには、まずそこから手を付けると決めた。去大黄にしたのは軟便気味だったからだ。熱入血室で小柴胡湯でも良いかと思ったが、舌が真っ赤だったので大柴胡湯にした。

    これが日本漢方の現状である。到底学会とは呼べないあんな所の「漢方専門医」を持っていても、やってることはハウツー本の寄せ集めに過ぎない。「その人をどう診断(弁証)するか」がすっぽり抜け落ちている。どう弁証し、どういう治療戦略を建てているのか、それが完全に欠落しているのだ。

    だめさ、こんなものは。
  • 投稿日時:2023/06/09

    先日血圧の薬をもらいに来た人が、
    「ちょっと場違いかも知れませんが」というのです。「どうしました」と聞いたら「こちらでは水虫の薬を出していただくことは出来ますか」ですって。


    「そりゃもちろんですよ。ここは内科とは言っていますが、歯の詰め物を間違って飲んじゃった人とか、農作業で虫に刺された人とか、いろんな人が来ますよ」と言ったら患者さんは笑い出して、
    「そう言って戴けると安心です」と言って降圧剤と水虫の薬の処方箋を持って帰っていった。その後ろ姿に「あ、ただし虫歯は別ですよ。虫歯は歯医者さんね」と声を掛けたらその人はおほほ、と笑ってお帰りになりました。

    あゆみ野クリニックは幾つもの顔を持ちます。その一つ、オンライン漢方診療は全国でもえり抜きの漢方専門診療をしていると自負しています。オンライン漢方診療と銘打っているところはいくつかありますが、そのほとんどはツムラなどのエキス剤治療です。エキスは所詮エキスであり、結局「それなり」でしかありません。当院のオンライン漢方診療は佐橋佳朗先生という現代随一の目利きが選んだ生薬を使った煎じ薬治療であり、エキスとはまるで効果が違います。

    しかしあゆみ野クリニックのリアル外来はあくまで石巻の「町のお医者さん」です。ウチは内科ですから水虫は皮膚科に行って下さいなんて事は言いません。水虫でも虫刺されでも何でも診ます。もちろん見て分からないものは専門医に廻します。眼底を見て緑内障や白内障を見つけるのは眼科医であって私ではありません。でも高齢者が「最近目がかすむ」と訴えるのをきいて眼科に紹介するのは私です。町医者って、そう言うものでなくてはならないと思っています。

    あ、でも虫歯は歯医者さんですからね。

  • 投稿日時:2023/06/03

    この投稿は関係者ご家族の了解を得ています。

     


    あゆみ野クリニックには「老年内科」があります。割と多い患者さんは物忘れで認知症を心配してくる人です。そういう人の診断を付けて治療するなり、介護保険のルートに乗せるのは大事な仕事です。

     


    しかし時に「老年内科救急」というケースがあります。

     


    ある非常に高齢の方の娘さんが「最近父の具合が悪いんです」と御本人を当院に連れてこられました。御本人は数ヶ月前に当院の発熱外来に受診され、コロナと診断しましたが、その後の経過は訊いていませんでした。今回伺った限りではその時は当院が出した漢方薬で重症化せず回復したそうです。

     


    しかし最近どうも元気がない、むくんでいる、胸が苦しいと訴えるという事で、当院を受診されました。実はその方は血圧などで別のクリニックに掛かっておられたのですが、何故かご家族は当院に連れてこられました。
    歩くのもやっとというその方をどうにか院内に入れて色々検査したらかなりな心不全です。胸水も溜まっており、そりゃあ胸が苦しいでしょうという感じです。


    さてどうしましょうという事になりました。その方は非常な高齢です。しかしご家族としては「出来ればもう少し長生きしてくれれば」と仰います。そうであれば、これは救急病院搬送になります。石巻なら日赤でしょう。助けるとあればそうなります。


    しかし私はご家族にこうお話ししました。
    「日赤に搬送するという事は、治療しろという事です。となれば点滴が付いて酸素が付いて、おしっこの管が付きます。それで本人が外そうとすれば両手拘束ですし、それでも騒げば抗精神病薬で鎮静となります。それでも救命を希望されるという事であれば・・・?」

     


    ご家族(娘さん)はしばし考えた上で「それはしないことにします」と言われました。まあ御本人は年齢は明示しませんが「極めてご高齢」ですから、それは忍びない、と言うことがご理解戴けたようです。

     


    その方は施設に入居しておられたので、事がそう決まればただちに各方面を動かさなければなりません。施設には娘さんから「施設看取りになります」と伝えてもらいました。施設長は「警察沙汰になるんじゃないか」と相当驚いたようですが、たまたまご家族がその辺の情報をお持ちだったので、在宅訪問診療にすれば警察沙汰にはならないという事を説明し、ご納得戴きました。それと同時に私はその地区の訪看センターに話を繋ぎ「明日から訪問看護をお願いします」と言いました。訪看センターも驚いたようですが、そこはプロなので、これこれこう言う人ですと説明したら理解していただき、すぐに動いてくれました。私が訪問看護指示書を出すのと同時に訪問看護が実施されました。

     


    重症心不全で呼吸不全がありますから、在宅酸素が必要です。私は在宅酸素の業者に電話し、「今日から開始する。指示書は明日書くから今日ただちに本人の居る施設に器具を届けてくれ」と依頼し、業者はその通り素早く動いてくれました。

     


    そうやってまずは臨時往診、次いで訪問診療の契約を結び、施設の管理者に改めて医者の私から「訪問診療をやりますので警察沙汰にはなりません」と説明して安心して貰い、看取りの算段も付けました。


    失礼ないいかたになるかもしれませんが、その方のかかりつけの内科ではこのような動きは取れなかったと思います。仮に心不全と診断しても、型どおり日赤に送ったかも知れません。

     


    これは「老年科救急」です。救命救急とは違いますが、今その高齢な人にとって何がベストかをとっさに判断し、家族に素早く合意を取り付け、訪問診療によるターミナルケアのシステムをその日の内に作り上げました。もちろん、関係各所がそれに応じて迅速に動いてくれたから出来たのですが。


    こういうことをやるのが「老年科医」なのです。あゆみ野クリニック老年内科は時にこう言う素早い仕事をします。高齢者医療だからのんびり構えていていいわけではありません。迅速な対応が必要なことがあるのです。一日でターミナルケアの体制を作って訪問診療に移行するということが求められます。これからしばらく毎晩枕元にスマホを置いて寝ることになりますが、それは致し方ありません。私の本職ですので。

  • 投稿日時:2023/06/02

    ある障害を自覚してショックを受けた若い人に。

     


    あなたの障害は、診断はついても治らないかもしれません。しかし障害を持っているということは、あなたの大きな強みです。障害があったりマイノリティであったりする人は、自然にそういう他人のことを理解することができます。「自分は健康で優秀で何も問題がない」という人は、かえって大きな迷惑なのです。あなたの障害は、あなたの一生の財産です。

     


    処方は特になし。

  • 投稿日時:2023/05/30

    先週あゆみ野クリニックオンライン漢方外来に掛かってくださった80代女性。冷え症で受診されていますが、八味地黄丸でご本人曰く「もうすっかりよい」。しかし同席された息子さんの話では「まだいっぱい着込んでいる」と。するとすかさずご本人「風邪引いちゃいけないと思うからねえ」。アルツハイマーに特有な「取り繕い」もこうなると堂に入っています。

     


    この季節のお年寄りの冷え症治療は、神経を使います。宮城県はGW辺りから、爽やかな初夏の季節が訪れるのですが、梅雨入り前、つまり6月ぐらいから湿った冷たい空気が流れ込み、梅雨明けまでかなり肌寒くなります。日本には四季があると言いますが、宮城県は五季なのです。春が来て、5月に初夏を迎えたかと思うと梅雨寒に移行し、それが開けると途端に猛暑になり、8月の仙台七夕が終わる頃になるともう秋の風が入り込み出します。今は丁度爽やかな初夏から梅雨寒に移り書ける頃なので、「さて天気がどっちに転ぶか」で冷え症の薬を調節しなければなりません。

     


    お天気や季節で治療が変わるってのは、西洋医学ではちょっときいたことが無いです。確かに降圧剤のアムロジンはほてる人がいますが、だからと言って高血圧の人に冬はアムロジンを出し、夏はカンデサルタンを出すという治療はないです。糖尿病でも高コレステロール血症でも、季節の移ろいには関係ありません。


    しかし高齢者の冷え症は、この季節の移ろいを正確に読まないといけないのです。読む必要があるのです。


    あゆみ野クリニックオンライン漢方診療は基本煎じ薬なのですが、この方には今あえてツムラの八味地黄丸を出しています。ツムラの八味地黄丸の利点は、たいして効かないことです。この「暑くなるのか寒くなるのか微妙」な時期に、効き目の強い煎じ薬で八味地黄丸など出すと、お年寄りには強すぎます。それを出して季節がそのまま暑くなってしまうと、熱中症になりかねません。たまたまそのオンライン診療をした日はまさに半袖がぴったりの暑さの初夏の日でしたので、私はよっぽどこの辺で八味地黄丸は止めて六味丸か清暑益気湯に替えようかと思ったのですが、待てよ、そう言えば明日からまた天気が崩れるとか予報が言っていたよな、と思いだしてツムラの八味地黄丸一日2回一回一包のままにしました。そうしたら私の勘は見事に当たって、翌日から私ですらちょっと肌寒さを感じる天気になったので、やれやれ、処方を変えなくてよかったと思いました。これでしばらく梅雨寒の時期を過ごして貰い、梅雨が明けたらすかさず清暑益気湯に変えていかなくてはいけません。そのタイミングを誤ると熱中症になってしまいます。

     


    もちろん、季節の移ろいは地方によって違うでしょうから、その土地の季節の巡りに合わせて治療すべきです。宮城の私の治療をそのまま真似してもダメです。ともかく基本は「真冬の本気で寒い時は当院なら「煎じ薬の八味丸で附子多め、当帰追加」となりますが、エキス剤しか使えないのなら「八味地黄丸と当帰四逆加生姜湯を合わせる」。春になって桜が咲いたら八味地黄丸だけにする。この桜が咲くって言う目安は便利です。だって桜の開花は地方によって違いますから、九州と北海道で何時を目安にするかと言えば、「桜が咲いたら」にすればよいのです。そうしたら何処の土地でも薬の減らし時を間違えなくて済みます。

     


    初夏にかなり暑くなる西の地域では、いったん冷えの治療はお休みすべきです。幾らお年寄りが冷えると言ってもです。高齢者は温度感覚がずれているのはよく知られている事実ですので、あまり患者の訴えだけに引きずられてはいけません。一方北海道から東北のように初夏でも風はまだどこか肌寒い、あるいはそこから梅雨寒が始まるという土地ではあまり効かないツムラの八味地黄丸を敢えて選択し、一日二包ぐらいでやります。

     


    梅雨はジメジメと蒸し暑い地域と梅雨寒の地域とで治療が変わります。蒸し暑い地域では、お年寄りが幾ら寒いと言っても八味地黄丸のような温熱剤は止めるべきです。エキスなら清暑益気湯にしたら良いです。「清暑益気湯」という処方は歴史上有名なものが2つあるのですが、ツムラの清暑益気湯は医学六要という本が原典で、ほとんど潤い作用のある生薬が入っていません。麦門冬と当帰、それに人参がちょっと。麦門冬と当帰以外は基本的に胃腸薬ですから、食欲が失せる蒸し暑い梅雨には丁度良いでしょう。

     


    本当の真夏になったら、白虎加人参湯にします。これはまさに冷やして潤す薬です。真夏の熱中症を避けるにはエキスの清暑益気湯ではダメで、白虎加人参湯で無ければなりません。

     


    こうやってその土地その土地の季節の移ろいに合わせて治療を替える。如何にも漢方ですねえ。
     

  • 投稿日時:2023/05/27

    更年期障害の女性が漢方外来に来ました。その人は精神科に行って、補中益気湯を出されたそうです。私は仰天しましたが「その先生はなんだと言ってあなたにこの薬を出したの?」と訊きました、そうしたら、「元気が出る薬だと言われた」そうです。

     


    確かに補中益気湯は、元気がない人にのませて元気が出ることがあります。しかしその人は更年期障害で、全体に体が火照っていました。補中益気湯は元気がなくて身体にエネルギーが足りないので体が冷える人に使います。更年期障害で身体が火照る人に補中益気湯を飲ませたのでは大変です。飲めば飲むほど火照ります。

     


    漢方を知らない医者が出す漢方薬ってこう言うものです。何事も、餅は餅屋なのです。漢方を知らない医者が漢方を出したら、当院のオンライン漢方診療に掛かってください。いや、マジで。

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