石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
高齢者の冷え症。漢方では「季節をよむ治療」が必要です。
2023/05/30
先週あゆみ野クリニックオンライン漢方外来に掛かってくださった80代女性。冷え症で受診されていますが、八味地黄丸でご本人曰く「もうすっかりよい」。しかし同席された息子さんの話では「まだいっぱい着込んでいる」と。するとすかさずご本人「風邪引いちゃいけないと思うからねえ」。アルツハイマーに特有な「取り繕い」もこうなると堂に入っています。
この季節のお年寄りの冷え症治療は、神経を使います。宮城県はGW辺りから、爽やかな初夏の季節が訪れるのですが、梅雨入り前、つまり6月ぐらいから湿った冷たい空気が流れ込み、梅雨明けまでかなり肌寒くなります。日本には四季があると言いますが、宮城県は五季なのです。春が来て、5月に初夏を迎えたかと思うと梅雨寒に移行し、それが開けると途端に猛暑になり、8月の仙台七夕が終わる頃になるともう秋の風が入り込み出します。今は丁度爽やかな初夏から梅雨寒に移り書ける頃なので、「さて天気がどっちに転ぶか」で冷え症の薬を調節しなければなりません。
お天気や季節で治療が変わるってのは、西洋医学ではちょっときいたことが無いです。確かに降圧剤のアムロジンはほてる人がいますが、だからと言って高血圧の人に冬はアムロジンを出し、夏はカンデサルタンを出すという治療はないです。糖尿病でも高コレステロール血症でも、季節の移ろいには関係ありません。
しかし高齢者の冷え症は、この季節の移ろいを正確に読まないといけないのです。読む必要があるのです。
あゆみ野クリニックオンライン漢方診療は基本煎じ薬なのですが、この方には今あえてツムラの八味地黄丸を出しています。ツムラの八味地黄丸の利点は、たいして効かないことです。この「暑くなるのか寒くなるのか微妙」な時期に、効き目の強い煎じ薬で八味地黄丸など出すと、お年寄りには強すぎます。それを出して季節がそのまま暑くなってしまうと、熱中症になりかねません。たまたまそのオンライン診療をした日はまさに半袖がぴったりの暑さの初夏の日でしたので、私はよっぽどこの辺で八味地黄丸は止めて六味丸か清暑益気湯に替えようかと思ったのですが、待てよ、そう言えば明日からまた天気が崩れるとか予報が言っていたよな、と思いだしてツムラの八味地黄丸一日2回一回一包のままにしました。そうしたら私の勘は見事に当たって、翌日から私ですらちょっと肌寒さを感じる天気になったので、やれやれ、処方を変えなくてよかったと思いました。これでしばらく梅雨寒の時期を過ごして貰い、梅雨が明けたらすかさず清暑益気湯に変えていかなくてはいけません。そのタイミングを誤ると熱中症になってしまいます。
もちろん、季節の移ろいは地方によって違うでしょうから、その土地の季節の巡りに合わせて治療すべきです。宮城の私の治療をそのまま真似してもダメです。ともかく基本は「真冬の本気で寒い時は当院なら「煎じ薬の八味丸で附子多め、当帰追加」となりますが、エキス剤しか使えないのなら「八味地黄丸と当帰四逆加生姜湯を合わせる」。春になって桜が咲いたら八味地黄丸だけにする。この桜が咲くって言う目安は便利です。だって桜の開花は地方によって違いますから、九州と北海道で何時を目安にするかと言えば、「桜が咲いたら」にすればよいのです。そうしたら何処の土地でも薬の減らし時を間違えなくて済みます。
初夏にかなり暑くなる西の地域では、いったん冷えの治療はお休みすべきです。幾らお年寄りが冷えると言ってもです。高齢者は温度感覚がずれているのはよく知られている事実ですので、あまり患者の訴えだけに引きずられてはいけません。一方北海道から東北のように初夏でも風はまだどこか肌寒い、あるいはそこから梅雨寒が始まるという土地ではあまり効かないツムラの八味地黄丸を敢えて選択し、一日二包ぐらいでやります。
梅雨はジメジメと蒸し暑い地域と梅雨寒の地域とで治療が変わります。蒸し暑い地域では、お年寄りが幾ら寒いと言っても八味地黄丸のような温熱剤は止めるべきです。エキスなら清暑益気湯にしたら良いです。「清暑益気湯」という処方は歴史上有名なものが2つあるのですが、ツムラの清暑益気湯は医学六要という本が原典で、ほとんど潤い作用のある生薬が入っていません。麦門冬と当帰、それに人参がちょっと。麦門冬と当帰以外は基本的に胃腸薬ですから、食欲が失せる蒸し暑い梅雨には丁度良いでしょう。
本当の真夏になったら、白虎加人参湯にします。これはまさに冷やして潤す薬です。真夏の熱中症を避けるにはエキスの清暑益気湯ではダメで、白虎加人参湯で無ければなりません。
こうやってその土地その土地の季節の移ろいに合わせて治療を替える。如何にも漢方ですねえ。