石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
石巻の人口減少について考えてみた
2023/07/24
今日は、敢えて石巻にとって暗い話をします。
石巻市の人口は、平成20年には16万5千人でした。それが直近では13万5千人です。3万人減ったわけです。
もちろんその間には、あの大震災がありました。しかしそれだけではないようです。石巻市の人口は1985年の18万あまりがピークで、その後減少の一途をたどっています。震災の年、つまり2011年は極端に死亡者が多い。これはもちろん、あの震災で亡くなった人々です。深くお悔やみを申し上げます。
しかし石巻市全体の人口推移を見ると、グラフ(https://financial-field.com/living/entry-100278)を見れば分かる通り、ピークの1985年から今日まで、その減少スピードはほぼ一定です。震災だけで一気に人口が減ったわけでは無いのです。震災は確かに一時的に減少速度を上げましたが、1985年から現在までの減少グラフの中では、一時的に僅かな下振れを起こしただけです。石巻の人口は、震災とは別の理由で、ずっとほぼ一定の割合で減り続けています。
もちろん、日本全国の人口が減っているのだからしかたが無い、と言うのはあります。しかし石巻の人口減少率は、全国のそれを遙かに上回ります。
産業が無いのか。
石巻は全国でも有数の水産港湾都市です。海沿いに行けば分かりますが、巨大な港湾を取り巻くように、水産加工業の工場が建ち並んでいます。水産業はおそらく水産加工だけで無く、相当の関連産業を抱えているでしょう。この点、石巻は人口減少に悩む他の地域よりは優位なはずです。しかし人口はほぼ一直線に減り続けている。
石巻市でクリニックをやって丁度1年。私はどうもその一端が見えてきたような気がしています。
あゆみ野クリニックには心療内科があります。これは、亡くなった前院長長純一先生が標榜し、私が後任として赴任した時「残してほしい」と言われ残したものです。この当院の心療内科の患者さんのうち、実に8割近くが若い労働者です(後の2割は不登校の子供さんです)。職場環境になじめない、苛めを受けている、明らかなパワハラを受けている等々、職場の要因で心を病んでしまった若い労働者が、患者層の8割近くに上るのです。当院は別に労働問題を専門に掲げているわけでは無いので、おそらく石巻で心療内科を掲げると自然に集まる患者さん達なのだろうと思われます。
患者さんの話を聞くと、パワハラをしているのはちょっと大きな事業所では中間管理職、小規模事業所では経営者本人です。ほぼ全てが地元の中小企業です。大手企業の支店からそう言う患者さんが来ることは、めったにありません。
地元中小企業が、病んでいるのです。
患者さんの話を聞くにつれ、もちろん患者さんは被害者だが、彼らにパワハラをする中間管理職や中小企業の経営者が本当は一番病んでいるのではないか、という気がしてきます。つまり目の前に居るのは若い労働者ですが、その後ろに何人もの「病人」がいるのです。
私も貧乏クリニックを運営する経営者ですからよく分かるのですが、患者さんの訴えを聞く度に、「ああ、この会社、経営者本人がおそらく一番メンタルをやられてるな」という事が想像出来ます。経営はカツカツか火の車。経営者は絶えず資金繰りに追い詰められ、若い社員や中間管理職に当たり散らす。当たり散らされた社員は耐えられなくなって辞めていく。するとさらに人手不足が経営困難に拍車を掛ける。すると経営者はさらにヒステリーを募らせる。
目に見えるようです。
今やあゆみ野クリニックはこうした若い労働者の駆け込み寺のようになっていますが、私自身、飛び込んできた若い労働者を一時的に守って立ち直らせた後は、「仙台で職を探しなさい」と言わざるを得ません。仙台にもブラック企業はあるだろうが、ましな会社もあるから、と言うわけです。本当は「石巻にもよい企業はあるはずだから」と言いたいのですが、言えないですね、正直なところ。石巻で再就職しても、結局どこも似たような内情なんだろう、と考えざるを得ません。それほど石巻の労働環境は深刻です。
地域が疲弊し、その原因か結果か分かりませんが地元中小企業が疲弊する。そのしわ寄せが結局底辺の若い労働者に及び、若い労働者が石巻を出ていく。こういう構図は、間違いなくあります。若い労働者ほど、石巻を去らざるを得ない状況に於かれているのです。
経営者が追い詰められてヒステリーを起こすのは自己責任とまでは言いませんが、経営者というのは結局事態の責任を一人で負う立場です(私も含めてですが)。若い労働者は一方的な被害者です。しかし彼らには「立ち去る」という最終手段があります。地元中小企業の経営者には、私も含めてその選択肢はありません。だから余計に追い詰められる。それは私もその一人ですから痛いほど分かりますが、だからと言って社員に怒鳴りつけていては事態が更に悪化するばかりです。
これは自戒を込めて言うのですが、まずは石巻の地元中小企業の経営者がこの構図をしっかりと自覚する必要があります。人手不足が加速する一因は、間違いなく我々地元中小企業の経営者にあるのです。まずこれが自分の会社だけで無く、石巻全体で起きていることなのだという事を認識し、地元中小企業の経営者が一致団結して自らの意識改革と事態の打開に取り組まなくてはなりません。石巻から労働者が逃げ出し、経営者が直面する人手不足を加速させているのは実は経営者自身なのだという事を中小企業の経営者が自覚し、皆でその解決を模索しなければ、いずれ石巻は消滅するかも知れません。
経営者は孤独です。しかし一人で悩むばかりでは、いずれ自分の会社ばかりか、石巻そのものが壊滅します。みんなで真剣に話し合いませんか。