摩訶不思議な風邪治療

2023/08/09

最近は、発熱患者のオンパレードです。半分以上はコロナ陽性です。そういう患者さんの1人なのですが。

 

 

数日前から症状がある。熱は全く出ていない。鼻水、軽い咳、頭痛、そして何より体がだるいと言います。よくあるコロナのように、39度の高熱が出ていればみなさん怠いといいます。そりゃ当たり前でしょう。しかしこの人は数日前から鼻水や軽い咳があるだけで、熱は出ない。市販の風邪薬を飲んだが全く効かず、ひどくだるくなったのでクリニックに来たわけです。

 

 

体が冷えますか?と聞くと「それほど冷えるわけではないが、風呂上がりとかエアコンが効いてるところでは症状が悪くなる」と言われました。そこで私はこう説明したのです。

 

 

これはコロナはコロナですが、漢方で言うと直中少陰(ジキチュウショウイン)というパターンです。あなたは何らかの理由で体力が落ちていて、普通なら出るはずの熱が出せないのです。この症状は軽いのではありません。体力が落ち、正常な炎症反応が起こせない状態ですから慎重に養生が必要です。

 

 

そう説明して麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)と桂枝湯(ケイシトウ)と言う二つの漢方薬をどちらも倍量で出し、「必ず熱湯でよく溶かして飲んでください」といいました。

 

 

コロナも含め、ウィルス性上気道炎一般に、西洋医学には決まった治療法がありません。最近は総合臨床が流行りです。総合臨床の本には感冒について記載があります。しかしのっけから「感冒、いわゆる風邪」と書いてある本があります。これ、用語からして間違ってます。風邪が本来医学用語です。感冒というのは宋代にできた俗称です。そして「特異的治療法はない」と書いてあります。それはいいのですが、総合診療医ってのはEBM(根拠に基づく医療)が大好きです。それで、「特異的治療法がない」という文章に二つ英論文を根拠として引用している本がありました。私は立ち読みしてたのですが、ここでぷっと吹き出して、あとは本屋に置いてきました。こういう本や医学雑紙の風邪特集は、全部この調子です。冒頭に「特異的治療法はない」と書いて、あとは風邪と紛らわしい別の疾患の鑑別が延々と書かれています。当然こういうものに直中少陰なんか出てこないし、その治療法も出てきません。

 

 

まあこんな調子ですから、巷の医者は各人各様の摩訶不思議な「風邪診療」を編み出します。ある医者は風邪にアジスロマイシンという抗生物質とプレドニン(ステロイド)を出しますし、ある医者は風邪には抗生物質は必要ないと知っているのか、アセトアミノフェン(カロナール)にイブプロフェンにペレックスを出します。アセトアミノフェンもイブプロフェンも解熱鎮痛剤です。ペレックスは複合感冒薬ですが、実はペレックスにもアセトアミノフェンが入ってます。アジスロマイシンは抗生物質ですが、風邪はウィルス性疾患で細菌感染ではないので、これは全く無駄です。それに風邪にステロイドって、いやそれは流石に頼むからやめてくれ的な・・・。

 

 

でもこういう珍妙な風邪治療も、一概に責められません。だってどの本を見ても、どの医学雑誌の特集を見ても、「風邪の特異的治療法はない」および「風邪に紛らわしい他の疾患の鑑別」しか書いてないのに、風邪の患者は毎日来るんですから。開業医は患者を前に「風邪に特異的な治療はない。これがエビデンスだ」と言って英論文2本見せても話になりませんから、どうにかしようと「独自の」処方を編み出すわけです。

 

 

風邪に特異的な治療法はないと言って英論文2本引用したって誰も読まないんですから、それより漢方の直中少陰とか、患者が悪寒する時とほてる時では治療が違うとかいう話をしてくれた方が、マシだと思うんですけどねえ・・・。


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