漢方薬は自然のもので体に優しい?

2023/09/25

私は漢方医ですが、日本東洋医学会が出している「漢方専門医」は持っていません。そもそも東洋医学会も退会しています。あの専門医は「ツムラの何番がいいか」選べるだけでなれるのです。それだけです。それすら出来ない「漢方専門医」も腐るほどいますが。


しかし私は生薬一つ一つの性味、薬効を知り、煎じ薬を処方することが出来る日本で数少ない(おそらく多くて100人いるかいないか)医者の一人です。ほとんどの「漢方専門医」は生薬一つ一つの薬効なんか知りませんから生薬を組み合わせて煎じ薬を処方するというのは出来ないんです。


そういう立場から一言言わせていただきますが、「西洋薬はどうで漢方薬はこうだ」という類の素人談義は一切無意味です。強いてそういう比較をするなら、西洋薬は薬理機序がはっきり分かっているものが多く(全てではないです)、比較的「どの医者が出しても同じ効果が得られる」という利点があります。一方漢方薬は「その効能効果は漢方医学、ないし中医学の概念の中でしか説明出来ず、その概念も(少なくとも日本では)まったく統一されておらず、従って概念が統一されていないので薬理機序を研究したくても出来ない」状態のものです。両者の違いを言えばそういうことです。


しかし西洋医学の薬だろうが中医薬・漢方薬だろうが、それは物質のかたまりであって、そこに含まれる何らかの物質が体内に入り人体という物質の塊の中でなんらかの化学反応を起こすから効果が出るという基本原理は同じです。「西洋医学は人工のものだからから身体に悪く、生薬は天然物だから安心だ」などという人がいますが、冗談じゃないです。天然物はしばしば毒性があります。天然のものが安心ならふぐをそのまま食えば良いし、トリカブトをおひたしにでもして食ったら良いです。自然界のものは植物でも動物でも自分の身を守るためにしばしば毒を持つのです。


生薬は天然だから安心なのではありません。その生薬の薬効、使用法、加工法、副作用をよく熟知した専門家が、それを使用すべき適切な患者を選び、なおかつ生じうる副作用をきちんとモニタリングしながら使えば安心なのです。その点西洋薬とまったく変わりは無いです。

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