石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
ランソプラゾール(タケプロン)をお飲みの方はご注意
2023/11/13
多くの開業医は勉強熱心だから企業が協賛する勉強会にせっせと通いますが、私は横着なので暇な時に英論文を読んですませます。このJAMA(アメリカ医学会雑誌)に最近載った論文には開業医である私が驚くようなことが書かれていました。代表的な胃酸を抑える薬の一つランソプラゾール(商品名タケプロン)を飲んでいる人にセフトリアキソンという抗生剤を注射すると、心停止や死亡が増えるというのです。
ランソプラゾール、商品名タケプロンは胃潰瘍、逆流性食道炎などによく用いられる胃酸を抑える薬です。極めてたくさん処方されていますし私も時々使います。胃酸を抑える薬であるPPIはたくさんありますが、ランソプラゾールはPPIの中でも特に一般的に使われる薬の一つです。皆さんや皆さんのご家族でも飲まれている方は多いと思います。
ところがこの論文によると、セフトリアキソン(商品名ロセフィン)という抗生物質の注射をPPIを飲んでいる人に使った場合、ランソプラゾールを飲んでいると心室性不整脈や心停止、入院中の死亡のリスクが他のPPIを飲んでいる人より明らかに高いというのです。
困りました。
セフトリアキソン(商品名ロセフィン)という抗生物質の注射薬は、注射が一日一回で良いという利点があります。だから入院患者にも使われますが、当院(あゆみ野クリニック)のような外来しか無いクリニックで非常に重宝する抗生剤の注射です。だって外来患者に「朝夕二回毎日注射しに来い」ってなかなか言えないです。ですから腎盂腎炎(腎臓にばい菌が入る)、蜂窩織炎(皮膚の裏側にばい菌が拡がる)といった病気には、セフトリアキソン1日1回注射7日間、という治療をします。毎日通うのはそれなりに面倒かも知れませんが、それでも一日一回来るだけならわざわざ入院するよりは楽だしお金も安くてすみます。当院は発熱外来をやっているので、腎盂腎炎や蜂窩織炎の患者さんは時々いらっしゃいます。特に女性は腎盂腎炎になりやすい。
しかしこういう結果が出てしまうと、ランソプラゾール(タケプロン)を飲んでいる人が腎盂腎炎などになってもセフトリアキソンは使いにくい、と言うことになってしまいます。腎盂腎炎を治療しようとしたら心停止した、と言うのはシャレになりません。
ではどちらを換えるべきでしょうか。私はランソプラゾール(タケプロン)を別のPPIに替えて貰った方が良いと思います。何故なら胃酸を抑えるPPIはランソプラゾール以外にもたくさんあります。他を選んだら良いのです。それに対して、腎盂腎炎になった、蜂窩織炎になったという時、セフトリアキソンの注射が使えないとなれば、「病院紹介しますから入院してください」という話になります。外来で一日一回注射で治療出来る抗生物質って、他に無いからです。ランソプラゾール(タケプロン)を飲んでいる人は、主治医に相談して他のPPIに替えて貰ってください。PPIは他にいくらでもありますが、セフトリアキソンの代わりになる抗生剤はなかなか無いですから。
なお冒頭に「多くの開業医は勉強熱心だから云々」と書いたのは軽い皮肉です。製薬会社が協賛する勉強会で、こういう胃薬と抗生物質を併用すると死ぬ場合があるなんて情報を仕入れるのは不可能です。製薬会社に都合が悪い情報はそういう所では講演出来ません。JAMAは世界三大医学ジャーナルの一つです。開業医だろうがなんだろうが、本当はこういう論文に目を通して輪唱するべきなんです。だってこれ、実際開業医の臨床にまさに関わる情報ですから。