職場の悩みと四苦八苦

2023/12/13

職場の人間関係で鬱になり、仕事を辞めた患者さん、状態もよくなってきたのでそろそろ職探しを始めている。しかし次の仕事でもきっと誰かと上手く行かないのではと不安だという。


それはそうです。私もあちこちで働きましたが、どうも立ち回りが下手でねえ、いつも衝突してしまうんですな、特に偉い人と。と私も半ば溜息を漏らしながら応えた。


そうですよねえ、と患者さん。


ところがね、こんな話があるんですよ、と私。四苦八苦って言うでしょう、四苦ってのは生老病死だ。しかし八苦というのは、もう四つ苦しみがあるから八苦なんです。それが何かって言うと、「いやな奴ほど付き合う羽目になる」ってのと、「この人とは別れたくない」と思う人ほど引き裂かれてしまうものだ、と言うんだね。もう二つは今日は置いておく。


これ、一応仏教では有名なんだけど、仏典でこう言うってことは、お釈迦さんにだって内心いやな奴がいたってことですよ。こいつ面白くねえ、と腹で思いながら内心取り澄まして悟った顔をしてたって事じゃ無いですか。ね、あなたが悩んでる事って、お釈迦さんだって悩みの種だったわけさ。


そう言ったらその人一瞬あっけにとられたような顔をしたがふっと緊張がほぐれたように笑い出した。なるほど、そうですねえ、なるほどなるほど、と頷いている。それまでなんとなく不安が晴れないような顔をしていた患者さんの表情が一気に穏やかになった。


そこで、「今の仏教はね、お寺に行くと仏像があって拝むんだが、お釈迦さんはそんなことは言ってない。あの人は自分の像なんか造るな、と言ったんだ」と教えた。患者さんはびっくりしたようだ。


お釈迦さんが本当に言ったことは、仏像を拝めば救われるなんて事じゃ無い。まずこの世界の成り立ち、法則、自分を取り巻く状況を冷静に見抜けというんだ。そうして、見抜いたらあとは自分を信じて行動しろって言った。結局あなたの頼りにすべきは正確に状況を見抜くことと、自分を信じることだ。こんな安定剤だ漢方だが頼りになるわけじゃ無い。そうだろ?」


医者としてはかなり乱暴な理屈だが、患者さんニコニコとして頷く。はい、今日の説教はお終い。お布施は千バーツね。よいお年を。


四苦八苦が本当にブッダの言葉かどうかは実は怪しい。だが私は対機説法をしたわけだ。患者を安心させるために悪い冗談の種にされたぐらいで、お釈迦さんが怒るわけでも無いだろう。


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