聴診するときしない時

2024/01/12

先日発熱外来を受診された方から「聴診はしないのか」という声があったと聞きました。

 

 

聴診というのは儀式ではないので、必要な時に目的があってやります。ただ当院のようなちっぽけなクリニックでもレントゲンや心電図を普通にその場で撮れるようになっている今、聴診の必要性は限られています。

 

 

代表的なのは喘息発作でしょう。気管支喘息というのは発作時に聴診してあの典型的な「ピュー」っと言うパイプに空気が通るような音を聞けばそれで診断確定です。その音だけで「喘息発作」と診断します。逆に明らかに喘息発作のはずなのに胸を聴診して何も音が聞こえない時は「無音性喘息」と言ってやばいのです。それはその患者さんがほとんど窒息しそうだと言うことを意味します。

 

 

内科初診の患者さんは全て聴診をします。これは主に心臓弁膜症を引っ掛けるためにやります。心臓が血液を全身に送るポンプなのはご存知と思いますが、心臓の中にはその血液が逆流しないよう三個の弁がついています。僧帽弁、三尖弁、大動脈弁です。こうした弁が硬くなったり逆流したりすると聴診で心雑音が聞こえます。弁膜症と言います。だからまず最初の外来で「心雑音はないかな」とみている訳です。胸のどの辺に雑音が強く聞こえるかで、おおよそどの弁に問題があるかまで当たりがつけられます。昔はもっと詳細な聴診を行ったようですが、今では心臓エコーというものがありますので、詳細な検査は心臓エコーでやりますから、聴診の役目は「最初に引っ掛ける」だけになっています。

 

 

肺の慢性疾患で特有の呼吸音がすることがあります。しかしそういうのは今はレントゲンなどの検査がすぐその場でできますから、あまり重要ではないです。

 

 

訪問診療で往診先、となるともちろん聴診は大事です。往診先にレントゲンはないですから。肺炎の音とか、胸に水が溜まっていないかとか、聴診で探ります。もちろん「怪しい」と思えばすぐクリニックに来てもらうか、容体が悪ければ入院紹介になりますが、「とりあえずこれはまずいぞ」という「医者の感覚」を持つのに聴診は大事。

 

私が聴診を使うのは、だいたいこんなところです。だから発熱外来の患者さんを聴診するというのは、普通はやりません。発熱外来だけども息が苦しいと言われると、血液中の酸素濃度がその場で測れますから、それが下がっていれば患者さん本人に特別なマスクをつけてもらってレントゲン、という方が優先になります。そういうことは別ですが、一般に発熱外来で聴診する意味はないので、やりません。38度の熱が出てふうふう言っている人に弁膜症があるかないかみても、患者さんから「今日はそっちじゃない」と怒られてしまいます。


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