山芋の効能

2024/02/18

これは今夜の我が家の夕食で出たおかず。長いもをすりおろして卵を落とした奴です。長芋、つまり山芋はれっきとした生薬です。山薬(さんやく)といいます。胃腸の薬であると共に八味地黄丸(はちみじおうがん)など老化防止の漢方薬によく配合されます。

山芋、つまり山薬が老化防止作用があると考えられたきっかけは、おそらく迷信だったと思います。昔々、山芋が生薬になった頃は天然物、つまり今で言う自然薯だったのです。あの何年も経って土中深く真っ直ぐ下に張っている根は如何にも強靱で、これを食べたら精が付いて老化防止になるに違いないと考えたのでしょう。しかし今の山薬はほとんどが栽培品ですから、スーパーで売っている長芋と同じです。

ところがですね。実は意外なことがあるのです。こうやってすりおろした長芋に卵を一つ混ぜると、このとろとろ感は脳卒中や認知症があって嚥下障害を持つお年寄りが誤嚥しないで飲み込むのに丁度良いのです。脳卒中などで嚥下中枢がやられると誤嚥を起こし、誤嚥性肺炎になります。そういう人が一番飲み込みやすいのがこう言う「とろとろ感」があるものなのです。ゼリーとかプリンとかムース状にしたものが工夫されていますが、長芋(山芋)を擦ったものはまさに格好の嚥下食です。芋ですから主成分はデンプンです。なんだデンプンかあ、じゃないのです。デンプンは炭水化物。炭水化物というのは簡単に言えば糖を繋げたものですから、高齢者の弱った胃腸でも簡単に消化吸収出来て糖に変わります。糖はエネルギー源です。

つまりすりおろした山芋は要介護高齢者の食事として最適です。こうやって卵を一個落とせばタンパク質も補充出来ます。まさに昔の人が考えた通り、年寄りの精を付けるわけ。昔の人は自然薯のすごい生命力を覧て「老化防止になる」と考えたのでしょうが、現代老年医学の観点から見てもこれはフレイルな(体力が弱った)高齢者の格好な栄養源です。

なお山芋は大きく言うとヤムイモの属、里芋はタロイモの属です。どちらも東アジア一帯に広く自生していますが、天然のタロイモ系は大方毒をもっています。栽培品は品種改良で毒をなくしているのですが、東南アジアの一部では毒があるタロイモを色々と工夫して毒を除き食用にするようです。しかしタロイモ系の芋はもともとが毒性をもつものがおおいので、生薬にはなっていません。漢方の元である中国伝統医学の生薬は毒を持ちながらうまく毒を減弱して薬として使うというのがいくつかあるのですが、タロイモ系統の毒芋を使わなくてもヤムイモ系の無毒な芋で充分滋養強壮になるから、あえてタロイモ系を生薬にはしなかったのだろうと思います。

PAGE TOP