急性胃腸炎(嘔吐下痢)に半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)。

2024/04/03

昨日当院発熱外来に来た方。38℃以上の高熱ですが、同時に水様性の下痢をしていました。抗原定性検査はコロナ、インフルエンザとも陰性。


たしかに、コロナでも下痢を伴う場合はあります。しかしその人は今のコロナではほぼ100%近くともなうはずの咽頭痛がなかった。症状は主にその下痢だったのです。だから私は昨日の段階で、「これはコロナじゃないな、なんらかの感染性腸炎だ」と考え、御本人には「これはコロナやインフルエンザではありません。何かの感染症による腸炎です。ウィルスも細菌も胃腸炎を起こしますが、胃腸炎はどのみち半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)という漢方薬で治ってしまうことが多いから、今日は半夏瀉心湯を出しますが、細菌かウィルスかの判断は必要だから採血します」と言って採血しました。


その結果が今朝返ってきて、白血球増加、とくに好中球という細菌感染の時に増加する白血球が大幅に増えていたので、私は「なるほど、これは細菌感染による腸炎だ。しかし今日症状がどうなっているか確認しよう」と思い本人に電話しました。そうしたら下痢はもう治まり、熱も下がったと。


腸炎ではこういうケースは良くあります。細菌感染だからと言って必ず抗生物質を使わなければならないわけではないのです。ともかく大量に水を飲み、大量に下痢をすることで腸管を洗い流してしまえば腸炎は治ります。


いや、半夏瀉心湯は必要なのかって?無論、EBMに厳格な先生方はそこを攻撃します。細菌性胃腸炎は大量に飲水して下痢すれば治ることが多いのだから、その症例を持って半夏瀉心湯が有効とは言えない。


それはそうなんです。別に半夏瀉心湯を出さなくてもその人は治ったかも知れません。しかしそう言うタカビーなことを言えるのは大病院の専門医であって開業医じゃないんです。大病院の消化器専門医なら「エビデンスがありませんから水飲んでなさい」と言えます。そう言われた患者は二度とその病院には行かないと思いますが、一従業員、雇われの医者に過ぎない厳格なEBMerの医者は患者が一人病院から離れたって何も心配ありません。しかし開業医にとってそれは死活問題です。「あんなに下痢で苦しんだのに、何か偉そうなことを言って薬一つ出さなかった」という噂が広まれば、あるいはグーグルにそんな口コミが書き込まれたら、即倒産の危機です。


そういう細菌性腸炎に安易に抗生物質を出すべきではありません。不要な抗生物質を出してはいけない。いたずらに多剤耐性菌を作るだけですから。しかし半夏瀉心湯は昔からそういう感染性腸炎に使われてきた薬であって、ウィルス性だろうが細菌性だろうが患者は治るのですから、別に出しても構わないわけです。


やかましいEBMerは大抵勤務医です。勤務医は自分が勤務する病院の患者が減ろうがどうなろうが責任取らなくて良いから、いくらでも好きなことを言います。しかし私は「細菌性腸炎でも抗生物質は必ずしも必要ではない」という知識と「ウィルス性でも細菌性でも半夏瀉心湯を飲ませればおおよそは治る・・・それが偶然かどうかは別にして」という知識を合わせて、とりあえず半夏瀉心湯を出します。そして採血し、その結果細菌性だと分かれば患者に電話して容態を聞く。それで患者がだいぶよくなりましたと言えば、それでいいんです。下痢も止まり熱も下がっているのに「いや採血データによればあなたは細菌性の腸炎だから抗生物質を処方します」なんてのは野暮です。治っちゃっているんですから結果オーライ。昨日の薬が効きましたね、今後も何かありましたらどうぞ。それでいい。


私もだいぶ、丸くなったんです。


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