血中カリウム濃度が正常な偽アルドステロン症について

2024/04/24

先日仙石病院 循環器内科にご紹介した患者さんの高血圧症につき、先方の循環器内科の先生から偽アルドステロン症を疑うので漢方を止めたというご報告をいただいたのに対しお電話で「当方の採血で血中カリウム濃度(sK)は正常でした。sKが正常な偽アルドステロン症はありません」と申し上げたのですが、その後気になって調べ直したら、私が間違えておりました。


偽アルドステロン症の基本はなんらかのグリチルリチン代謝産物(まだ特定できていません)及びその他のものが11β-hydroxysteroid dehydrogenase(HSD)2を抑制し、そのため高濃度で存在するコルチゾー ルを、ミネラルコルチコイド受容体(MR)に結合しないコルチゾンに変換する経路が働かなくるため、コ ルチゾンに変換されなくなったコルチゾールがMRを介して、ミネラルコルチコイド作用を発揮することです。


これは要するに原発性アルドステロン症と全く同じ現象が起きているということです。ただそれがアルドステロンによるものではない、ということだけが違うのです。ミネラルコルチコイド受容体の活性化により、イオンと水の輸送を制御するタンパク質(主に上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)、Na+/K+ポンプ、血清糖質コルチコイド誘導性キナーゼ(SGK1))が発現し、ナトリウムが再吸収され、その結果、細胞外容積が増加し、血圧が上昇し、体内の塩分濃度を正常に保つためにカリウムが排泄されます。こういった一連の作用により、K排泄の結果が低カリウム血症、Naと水の再吸収が高血圧と 浮腫を引き起こします。


しかし最近、偽アルドステロン症だけでなく原発性アルドステロン症においても10%以上でsKが正常値を示すことが知られてきており、上記の通り原発性アルドステロニズムと同じ病理機序(ただしその原因がアルドステロンによるものではない)で発症する偽アルドステロン症でも、必ずしもsKが低値を示すとは限らないということも知られてきた、ということです。


したがって偽アルドステロン症はsK正常だけでは否定できず、甘草を含む漢方薬(ただしgアルドステロン症を生じる物質は他にもあるのですが)の内服とともに血圧上昇を示したら、sKが正常であっても偽アルドステロン症を疑うべきであり、その診断には漢方薬の中止が可能なら中止して血圧の経過を見る。またもし漢方薬内服と血圧上昇の時間的経過の関連が不明確な場合はレニン、アルドステロンを測定し、レニンが低値を示し、かつアルドステロンも正常ないし低値であれば診断確定、ということのようです。なおグリチルリチンのどのような代謝産物が11β-hydroxysteroid dehydrogenase(HSD)2を抑制するのかはまだ不明だそうです。


今回はご指摘を受け長年の私の誤りに気がつくことができました。厚くお礼申し上げますとともに、今後も勉強を怠らないよう、気をつけます。


あゆみ野クリニック
岩﨑鋼

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