ローカルルールと法の支配

2024/07/10

私は医師として一定の知識があります。また著作権についての知識もあります。それは、私が臨床医としてのキャリアだけでなく、長年学者でもあったので、論文や総説を載せる際必ず著作権法の知識が必要だったから、学んで知っているのです。さらに今は、労働三法(労働基準法、労働組合法、労働関係調整法)や教育基本法を学んで労働問題で苦しむ患者さんや不登校のお子さんに対応しています。

 

私の亡父岩崎修は弁護士だったのです。父は、米軍横田基地訴訟弁護団の初代事務長でした。


米軍横田基地は、まさに地元住民を米軍が強制的に追い出して作ったのです。日本国の土地収用法に基づいたものではありません。日米安保条約とセットである日米地位協定に基づき、日本国は米軍が基地を作ると言ったらそれを一切拒否できません。在日米軍は、日本国憲法のもとに定められた日本の法律には一切従わなくて良いのです。


それまで地域の人々が日々の生活を営んでいた土地に突然米軍が現れ、この土地を接収すると宣言し、住民に銃を突きつけ、ブルドーザーで街を破壊して基地を作りました。溜まりかねて住民が立ち上がり、集団訴訟を起こしました。一審、二審は敗訴。そこで弁護団は初めて、在日米軍は日本国憲法に従うべきか否かを争点にしました。これは当時、日本政府が一番触れてほしくない問題だったのです。


日米安保条約には、在日米軍が日本の法の支配のもとにあるか否か、明文規定はないのです。それは、日米地位協定という、吉田茂が訪米した時米軍基地に連れて行かれて有無を言わせずサインさせられた、いわば闇協定で決められているのです。


日米安保条約は条約だから、日米両国の国会で批准、発効しました。しかし日米地位協定は、銃を突きつけられながら吉田茂がサインしたもので、正式な条約ではありません。しかしそれが今現在も、日米関係を縛っています。


だから日本政府は日米安保は公にしても、地位協定は曖昧にしました。ところが横田基地訴訟ではまさにそれが争点になったのです。日米安保条約では、米軍が勝手に住民を立ち退かせ基地にする根拠にはなりません。日米安保条約には、そんなことを認める条文がない。


すると今、米軍は銃を突きつけて住民を追い出し、土地を奪って基地にし、そのため住民は塗炭の苦しみを舐めているが、公式に批准されている条約である安保条約にはそんな事が許されると言う記載はない。条約に記載がない以上米軍といえども憲法のもとに存在する日本の国宝に従わなくてはならないはずだが現実はそうではない。一体日本国はこれについてどう考えているのか明らかにしろ。それが最高裁で正面から争点になりました。その結果、遂に最高裁は在日米軍は日本の法の元にはないと正式に認めたのです。


それまでサンフランシスコ条約で日本は独立国家になったと言う国の主張が最高裁によって否定されました。日本は独立国にはなっていない、在日米軍に日本の法律は適用できない。最高裁大法廷の判決ですから、国家としての公式判断です。横田米軍基地訴訟の最大の成果はその事でした。それまでサンフランシスコ条約で日本は独立を回復したことになっていたが、実はそうじゃないですと最高裁大法廷が判決で認めました。


それは、大きな第一歩になるはずでした。日本はアメリカに対して独立していないことを最高裁大法廷の判決が認めたのだから、日本人がやるべき事は、日本が実は独立していないことが公的に確認された以上、どうしたら独立できるかを必死で考え、努力すべきだったのです。しかしその後の日本の歩みはそうではなかった。逆に、なんだ、憲法だ法律だと言っても米軍には通用しないんだ。それなら法律なんか自分達も二の次でいいんだ。そうなったのです。せっかくの父たちの戦い、米軍を相手にした戦いは日本の民衆たちによって、真逆に捉えられたのです。


今、私は幼い頃門前の小僧として学んだ法律の知識に新しく労働基準法、教育基本法などを学んで、石巻の労働問題や不登校で苦しむ人々に対応しています。

しかし私がそう言う仕事をするときに一番感じるのは、石巻の人々は、あまりにも「法律」を意識しなさすぎます。石巻の方々はしばしば、法律を全く知らないだけでなく、社会のマナーだとか、会社の慣習とか、地域のお付き合いと言ったようなことだけでものを考えてしまいます。その結果、弱い人が弾かれてしまうのです。


法律というものはまさに、人が弱い立場になったときに不当な攻撃から身を守るためにあるのです。また強い立場の人間が不当に弱い立場の人間を攻撃させないために存在するのです。だから「法律は知らんけど土地の慣習だから、ウチの会社はこれまでこうやってきたんだから云々」という理屈は、まさにその「弱い立場におかれた人々」を追い詰めます。私の父たちが米軍に対峙して引き出した日本の国法の現状をまさに御都合主義で解釈して、法律なんか知らん、向こうが法律を持ち出して来ても、弱い奴は脅せばどうにでもなる、とやります。


しかし宮城県石巻市は間違いなく日本国の一部です。そうであるならば、在日米軍の軍人以外は日本の国法が適用されるのです。法律というものは(法律よりもっと強いのが憲法ですが)、土地の慣習だのマナーだのと言ったことよりも上位の規則なのです。土地の慣習だろうが職場の慣習だろうが会社の上司だろうが社長会長の意向だろうが,それら全てに法律が優先します。違法な慣習、違法な指示なんてものは要するに無効なのです。


ところが石巻の人々は往々にしてそれが理解出来ていません。職場でそうなっているから、上司が言ったから、地元の慣習だからと言います。しかしそれでその人は苦しんで、どうにもならなくなって当院心療内科に飛び込んできているのに、それでもなお職場が、上司が、周りが、と言います。そうじゃないよ、と私は言うんです。


あなたの上司はパワハラやってるんじゃない、暴行罪を犯しているんだ、しかもそれによってあなたは精神的に障害を受けているのだからそれは傷害罪なんだよ、傷害罪って、15年以下の懲役あるいは50万円以下の罰金なんだよ、と説明するんです。そうするとそういうパワハラを受けてきた人はびっくり仰天するんです。なんと、あの上司が行っていたのは傷害罪だったのか、そしてそれは15年以下の懲役に当たるんだと、初めて知るんです。


いいですか、石巻においても、在日米軍の軍人でない限り、日本の法律が適応されるのです。あなた方が知ろうが知るまいが。いや私は法律なんか知らなかった、なんていう言い訳は通じないのです。これを是非、石巻の方々には理解していただきたいのです。


それでこれまでやってきた、みんなそうやっているなんて言う理屈は、法律の前には通じません。無論、それで誰も困らなければそれでも良いですが、それでは困る、問題が起きたと言うときには「法律ではそれはどうなのか」が問われるのです。そこが大事なのです。交通法規は守っても労働法規は知らない、著作権法も知らない・・・しかし知らないということは言い訳にはならないのです。


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