老婆の呟き・震災復興の現実

2024/09/13

女川からある老婦人がご家族に連れられて受診してきました。その方は一人暮らしですが、昼寝から目が覚めた時など、「あれ?さっき娘がいたはずだ」と思い、探し回るのだそうです。娘さんは車ならそう遠くはないところに住んでいて、頻繁に様子は見にきますが、同居はしていない。それで家族が「どうも変だ」と言って物忘れ外来がある当院に連れてきたのです。

 

 

認知症のスクリーニング検査(MMSE)をやりましたが正常。高齢者鬱尺度も正常。「老年期妄想」というのもありますが、うーん、というわけ。

 

 

ところがその時、ご本人がポツリとつぶやいたです。

 

 

「みんないなくなっちゃったから」。

 

 

そうです。女川町の人口は震災直前の1万人から、今5千人まで減っています。珍妙なほど豪華に再建されたのは駅舎と、町役場と、駅から港に通じる一本のショッピングストリートだけ。そこを一歩出れば、昔から衰退が止まらない田舎町のままです。

 

 

「だけどあの駅前の通り、ずいぶん華やかになったじゃない」と私がいうと、おばあさん「あそこにお客さんが来るのは、週末だけよ」と。

 

 

そうなんです。あの通りって、要するに観光客狙いです。平日はがらんとしているのです。

 

 

どうやらそのお婆さんは認知症でも精神異常でもないようです。彼女は、寂しさが募っているのです。その寂しさが昂じて「娘はどこに行ったんだろう」ということになってしまうようです。

 

 

女川は「復興のフロントランナー」などと持て囃されましたが、現実はこの老婆の一言が全てです。

 

 

「みんないなくなっちゃったから」。
 

 

 


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