誰が名医だったか

2024/10/01

漢方には「望・聞・問・切」という四つの診断法があります。患者を目で見ること、患者が発する音を聞くこと、問診すること、患者を触ることです。切(せつ)というのは切るのではなく触るという事です。このうち、望診、つまり患者を見ただけで患者を判断出来るのは名医とされています。


ところが。


今日、ある初診の患者さんが来ました。いや、正確には「担ぎ込まれた」と言った方がいいでしょう。



詳細は省きますが、その人については昨日の夕方本人の関係者から相談の電話があり、相方事務長が「では明日来て下さい」と言ったのです。相方は電話口で「どうもこの案件は何月何日予約じゃない」と思ったそうです。しかし相方事務長がそれを私に告げたのは今朝でした。私は何も知らないから、「あ、そう。じゃあ今日午後来るんだね」と言いました。


その人は実際、今日午後に来ました。来たその患者を見た瞬間、私は「こりゃやばい」と直感しました。SpO2を測るとマスクを外しても90しかない。SpO2 90と言うのは、その人の風貌を見た瞬間医者が「やばい」と感じるのを数字で表したという事です。望診の「やばい」を数字にすると(全てではないです、この患者の場合です)SpO2 90になります。


後はサクサクとやるべきことをやって日赤に救急搬送しました。診断は伏せますが、要するに日赤に救急搬送を要したのです。


たしかに私は望診で物事を判断しました。後の検査は裏付けです。日赤の救急外来担当医に「望診で危険と判断しました」という診療情報提供書は書けないから、相手を納得させられるだけの検査をしたのです。しかし患者を目にしたその瞬間から、「この患者は日赤に救急搬送」という腹は固まっていたのです。


だからと言って私は名医でしょうか?そうは思いません。あの患者を一目見たら、医者なら誰だって「やばい」と思うでしょうし「救急搬送だ」という判断をするのも容易だったと思います・・・アー、誰とは言いませんがその判断が出来なかった医者がこの件に絡んで一人いましたが。


要するに望診で判断するってのは、「やばいかどうか」を判断するのです。やばいという判断は、殆ど一瞬でつきます。初診の患者が診察室に入ってきたとき、一目見て「あら、やばい」と判断するのは、そんなに高度な技ではありません。フツーの内科医です。逆に言うと、患者が診察室に入ってきた瞬間その人を覧て「やばいかやばくないか」判断出来ないような医者は駄目なんです。少なくとも、内科・外科なら駄目です。後は「やばい」ということの裏付けのための検査をして、高次救急に送るんです。高次救急病院は私が「この人やばいと覧ました」という紹介状では取ってくれませんから、高次救急の医者が「なるほどこれはたしかにやばい」と納得するための検査をするだけです。当院レベルで精確な診断を付ける必要は無いのです。高次救急病院が「あ、確かにこの人はやばいから受けよう」と判断するのに必要なデータ、所見を揃えれば、それでいいんです。


望診で判断するのが名医だというのなら、私が名医になってしまいます。しかし私は明らかに名医ではなく迷医ですので、「望診は名医」は間違いです。


ちなみに。今回の件ではたしかに名医が一人いました。相方事務長です。通常電話で相談があった新患は予約制です。何月何日なら空きがありますと言います。しかし相方事務長は電話口で本人ではなくその友人から話を聞いただけで「これはすぐ明日来て貰おう」と判断したそうです。


名医です。
 

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