医療過疎の真実

2024/10/12

要点
1. 医療過疎の本質は患者過疎である
2. 地方では高齢化を通り越し、高齢者人口自体が急速に減少し、医療も介護も産業として成り立たなくなっている。


またぞろ国が医療過疎対策として妙なことを言い始めたようだ。経験を積んだ40代、50代の医者を医療過疎地域に派遣するという。


40代、50代と言えば、生活費、子供の養育費が一番掛かる年代だ。医者自身の人生の岐路でもある。人生の勝負時だ。過疎手当をいくら積んだからと言って、そんな年代の医者、いや平たく言えば人間がおいそれと過疎地にいけるわけがない。要するに、こんな話に乗る医者はいない。


石巻市でも医療不足は深刻だ。とりわけ、救急、産科、小児科の不足が著しい。救急を担うのは市内では日赤一箇所しかなく、ご立派に復興再建された石巻市立は殿様商売で赤字を垂れ流している。


産科は日赤と民間が一箇所。小児科のクリニックは複数あるが、特に東部に少ない。石巻市が「市の東部に産婦人科か小児科が進出するなら初期投資の半分、五千万まで補助する」と言ったが、一軒も手を挙げたところは無かった。しかも石巻市は「在宅診療所なら市内何所でも同条件で補助する」と言ったが、これも応じたところはなかった。


何故これほど破格な条件を出しても医療機関は応じないのか?答えは簡単、採算が見込めない。初期費用を補助して貰っても、診療の採算が取れないことが明白な以上、何所もそんな話には乗れない。


では何故採算が取れないのか?これも答えは簡単で、石巻東部地域では若い妊産婦も子供も激減しており、今後さらに激減することが予想されているからだ。対象患者層の人口が今でも少なく、今後さらに急激に減少することが分かっているのでは、採算が取れるはずがない。


もうこれは鶏と卵なのだが、そもそもそういう地域では医療だけが不足している、なんてことはない。生活に必要な殆どのものが不足している。さらに言えば、人間の数そのものの減少が著しいのだ。従ってそういう所にはスーパーもコンビニも出店しない。出店しないから住民はどんどん不便になり、ますます人口は減少する。要するに、過疎地域で医療だけ提供したって無駄なのだ。消滅まっしぐらなのだから。


では何故訪問在宅診療所も手を挙げなかったのだろうか。


理由は2つある。1つは今年の国の診療報酬大改訂で在宅関連は大幅に点数が下がったこと。すなわち国は、これまでの在宅に軸を置いた高齢者医療介護政策の方向転換を計っていることが明確になった。これは当然だ。何故なら訪問診療では一人の医者は半日でどんなに頑張っても患者を10人しか診られない。そして半日で10件回る訪問診療というのは3分診療と同じで、粗雑そのものだ。一方外来診療なら、半日で50人診療する医者はざらだ。すなわち訪問診療、在宅医療は極めて効率が悪い。丁度今から団塊の世代が後期高齢者になり、やがて数年後には介護が必要な状態になる。その時、こんな不効率なやり方では到底対応出来ないことを、国もやっと認めたのだ。今後高齢者介護、医療は施設中心にならざるを得ない。そんな田舎町でえっちらおっちら医者を軽自動車で廻らせるより、地域の患者を纏めてマイクロバスで医療機関に運んできた方がずっと合理的だ。デイサービスだってマイクロバスで利用者送迎しているのだから、医療機関も同じことをすればよいのだ。


もう一つの、もっと根源的な理由は、今地方では高齢者人口そのものが急激に減少しているという事だ。地方の高齢化という言葉は使い古されているが、今実際に地方で起きているのは、高齢者人口の減少。すなわち、在宅医療も在宅介護も、そして介護施設も、対象になる高齢者そのものが減ってしまい、採算が成り立たない。だから閉鎖撤退するところが急激に増えている。つまり現実は医療過疎ではなく、患者過疎なのだ。


こう言うところは要するに地域としてもはや成り立たないのだ。成り立たないところに医者だけ持ってきても、介護施設だけ持ってきても、なり立たないものはなり立たない。居住権云々とは言っても、要するにそういう所にもう人間は住めないという事だ。人々が自然に消え去り「やがて誰もいなくなる」のを待つしか無いのだろう。


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