抗生剤の話・ケフレックスとケフラール

2024/12/01

昨日、ある石巻市内の調剤薬局の薬剤師から


「処方されたケフレックスが出荷調整で手に入りません。ケフラールで良いですか」という疑義照会が来たから、切れた。


切れたが、そこは還暦を過ぎた私だから昔のように電話口で「君は、馬鹿かね?」とは言わず、しかしかなりきつい口調で「駄目です」とだけ言った。そうしたら向こうがセファレキシンがどうのこうのといいだしたから私はそれを遮り、


「ケフレックスがなければバクタにしてください」と命じた。訊いたのでは無く命じた。


私はある膀胱炎の女性患者にケフレックス(セファレキシン)を出したのだ。膀胱炎の起炎菌は大抵大腸菌だから、培養同定感受性検査の結果が出る前に出す最初の抗生剤は第一世代セフェムのケフレックス(セファレキシン)だ。ケフラール(セフォチアム)は第二世代セフェムで、試験管内では大腸菌にも有効性が示されてはいるが、大腸菌を含むグラム陰性菌に対する効果はあまり強くない。ケフラールが尿路感染症に有効だと主張するのは、例えば鹿児島大学病院(https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/koukinyaku/nyourokansensyou.htm)のように、メイアクトすら推奨する愚かな医療機関だけだ。要するに、第一世代セフェムであるケフレックスは大腸菌による尿路感染に強く効いて基本的に使用する抗生物質だが、第二世代セフェムのケフラールを尿路感染に推奨するような所は、例え大学病院であってもメイアクトを推奨するような愚かな医療機関でしかない。ケフラール(セフォチアム)は、グラム陽性菌に対する効果は強いが、大腸菌などグラム陰性菌に対する効果は弱い。効果が無いことは無いが弱いから、私は敢えて膀胱炎にケフラール(セフォチアム)を選択しない。


しかしながら、電話口の向こうは薬剤師だ。つまり薬の専門家だ。薬については、無論医師も知識を持っていなければならないが、本来の専門家は薬剤師だ。それなのに何故この薬剤師は「ケフレックスが手に入らないからケフラールでよいか?」と言う愚かな質問をしてきたのか。


専門家が自分の専門領域に関して愚かなことを言えば、それは致命的なのだ。だから私が「駄目です。ケフレックスがなければバクタにしてください」と相手を遮って完全に高圧的な口調で命じたのは、相応の理由がある。若い頃の私なら、即座に「君は、馬鹿かね?」と言ったことだろう。そう言わなくなっただけ、私も還暦を過ぎて丸くなったのだ。


 

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