石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
微笑みの国の裏の顔
2025/01/07
この暮れと正月、29日の休日当番の翌日から一週間、思い切って休診にしました。どうしてもチェンマイに帰りたかったのです。
帰りたかったって・・・?
ええ、帰りたかったのです。私は日本人で、実家は千葉県船橋市にありましたが,その実家は両親ともに亡くなった今、もうありません。売ってしまいました。
タイ・・・あるいはラーンナータイと言った方が正確ですが、その古都チェンマイは、今はタイ北部の中心都市です。今のタイ北部に、19世紀までラーンナータイ王国という国がありました。チェンマイはその都でした。従って、バンコク(タイ語ではクルンテープ)を中心としたタイ王国とは違う文化が残っています。
それで、チェンマイは観光都市として大人気なのです。今のタイ王国、つまりチャクリー王朝の視点から見れば、古都はスコータイ、アユッタヤーとなりますが、スコータイもアユッタヤーも徹底的にビルマとの戦争で破壊され、正直何も残っていません。
それに対し、ラーンナータイ王国も数百年ビルマの王朝支配下に置かれたのですが、今のチャクリー王朝のタイ王国と手を結んで独立を果たしたので、チェンマイにはラーンナータイ王国が色濃く残っています。だから外国人観光客には、アユッタヤーやスコータイより人気があります。町そのものが歴史遺産とっていいんですから。
そのチェンマイに私が通うようになってもう30年。これまで何十回チェンマイを訪れたかもう覚えていません(過去のパスポートを数えれば分かるでしょうが)。しかし今回はちょっと事情が違いました。「翻訳アプリ」が使えるようになったのです。
チェンマイの旧市街にあるとある通り沿いにひっそりと建つこのクリニック。一見石巻の町のクリニックそっくりですが、如何にも素っ気ない。Community Clinicと英語で表記されています。
これは難題?と私はタイ人の旧友チェンに訊きました。そうしたらコミュニティークリニックだと。この周辺の人は、公的保険でいる陽を受けたければまずここに来なければならない。ここに医者が必要だと判断した患者だけが大病院に送られるのだと。
ほお、と思いましたが、それにしては何かが妙です。何しろ年明け最初の診療日だというのに、患者がほとんどいません。そういうクリニックであれば、年明け最初の診療日は、待合室は患者でいっぱいの筈です。特に高齢者がたくさんいるはずです。でもこのクリニックは閑散としています。
私はチェンを問い詰め、また担当者として出てきた看護リーダーも翻訳アプリを使い問い詰めました。その結果、彼らは想像を絶することを白状したのです。
ここはタイがやっている「家族計画」のためのクリニックだ。つまり「望まれぬ妊娠」を堕胎させるためのクリニックだというのです。
それで、年明け診療開始日だというのに待合室が閑散としている理由は分かりました。そう言われてみてみれば、若い女性が数人、付き添いと思われる人と一緒に来ています。患者は他にいません。
全てを知った私にチェンが説明しました。
こういうクリニックは、外国人観光客がたくさん来るバンコク、チェンマイ、プーケットなどには必ずある。そういう客が来ない町にはないよ。
このクリニックは、まさに微笑みの国の裏の顔だったのです。外国から押し寄せる観光客の中でも、「鬼の居ぬ間に」派手を伸ばした男性が夜遊びをする。その結果対の女性が「望まぬ妊娠」をしたとき堕胎に訪れるのがこのクリニックなのです。当然そういうクリニックであれば、それに付随する性病(性行為感染症)も扱うのでしょう。
このクリニックはシークレットだから、医者はあなたには会えない、と看護リーダーは言いました。シークレットだからこそここは表向き民間のクリニックの呈ですが、事実上タイ政府の金で運営されているのだと思います。「微笑みの国」はたくさんの裏の顔を持っていますが、ここはその中でももっとも深刻な一つです。