将進酒 李白

2025/01/19

君不見黄河之水天上來
奔流到海不復回
君不見高堂明鏡悲白髮
朝如青絲暮成雪
人生得意須盡歡
莫使金尊空對月
天生我材必有用
千金散盡還復來
烹羊宰牛且爲樂
會須一飮三百杯

岑夫子丹丘生
將進酒杯莫停
與君歌一曲
請君爲我傾耳聽
鐘鼓饌玉不足貴
但願長醉不用醒
古來聖賢皆寂寞
惟有飮者留其名


陳王昔時宴平樂
斗酒十千恣歡謔
主人何爲言少錢
徑須沽取對君酌
五花馬千金裘
呼兒將出換美酒
與爾同銷萬古愁


この李白の詩を理解するためには、様々な知識が必要です。そうでないと、これは単に飲んべえの詩人が友人に飲め、飲めと酒を強いているだけ、になってしまいます。



まず李白は、何所の誰か分からない人です。李というのは李白が生きていた唐王朝の姓です。彼は唐の玄宗にき気に入られたから李姓を貰ったのだろ宇土思います。まあ、石巻市民のおよそ1/4が阿部さんだというのと同じです。しかし白というのは、当時しばしばシルクロードの交易の民が名乗った名前です。つまり彼は、西域出身の人であった可能性が高いのです。


唐もその前の隋も、独狐氏という西北遊牧民族の血を強く引く王朝でしたから、この時代「民族差別」はありませんでした。何しろ皇帝、帝室が被差別民族の出身だったからです。


従って李白が何所の出身だろうが朝廷で差別されることはなかったのですが、しかし李白は完全に芸術家であって政治家・官僚ではありませんでした。彼はアル中だったから、毎日酔っ払っていました。しかし玄宗は玄宗で、ふと思い立ったときにいつでも李白を宮廷に呼んだのです。皇帝の命ですから参内はするものの、彼は毎日酔っ払っていますから、宮廷の礼儀なんか無視します。ついには玄宗お気に入りの大臣に足を突き出し「このブーツを脱がせろ」とやったものですからその大臣が激怒して、李白はお払い箱になりました。そのお払い箱になったとき彼が詠んだのがこの詩です。


李白はその時、一面ではせいせいしたでしょう。皇帝お気に入り大臣の機嫌を損ねて単にお払い箱で済んだのは、玄宗本人が李白を気に入っていたからです。そうでなければ殺されたはずです。


しかしやはり、彼は面白くなかったのです。俺のような天才があんな下らぬ権力に媚びを売るだけしか能が無い奴の横やりで放逐されるとは!


憤懣やるかたなかったはずです。何しろその大臣の名は、「李白を陥れた」という事だけで現代まで伝わっているのですから。


その李白の本音は


陳王昔時宴平樂

斗酒十千恣歡謔


と言う二行にだけ表されています。この陳王というのは、魏の曹操の息子だったが弟であった曹植です。曹植のもっとも有名な詩は「七歩詩」です。曹植は、兄で魏の武帝になった曹丕に徹底的に警戒され、あるとき曹丕から「七歩歩む内に詩を作れ。出来なければ殺す」と言われました。その時曹植がたちどころに読んだ詩がこれです。


煮豆持作羹

漉鼓以為汁
萁在釜下燃
豆在釜中泣
本是同根生
相煎何太急


豆を煮て濃いスープを作る

豆で作った調味料を
()して味を調える
豆がらは釜の下で燃え
豆は釜の中で泣く
豆も豆がらも同じ根から育ったものなのに
豆がらは豆を煮るのにどうしてそんなに激しく煮るのか


兄さん、私とあなたは血を分けた兄弟なのに、何故あなたは私をそんなに激しく憎むのですか?


この詩を聞いたとき、さすがの曹丕も思わず帝座を駆け下り、弟を抱いて泣いたそうです。


こういうこと一つ一つが詩に込められています。ただ一行があるだけで、李白の詩の真意は変わるのです。これが、中国詩の深みです。

ではどうぞ李白の将進酒を現代中国語でお聴き下さい。



 

PAGE TOP