石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
「怒り障害」
2025/04/12
日本内科学会雑誌の2023年12月号を「後で読もう」と思ったまま例によってほったらかしていたことにふと気がつき手に取ったら、心療内科も標榜している私にとって面白い特集だった。
「内科医が支えるメンタルヘルス」というのだ。
その冒頭で昭和大学ストレス・マネジメント研究所の中尾睦宏先生という人が、面白いことを書いていた。
人間の感情は、幸せ以外は殆ど否定的な感情である。中でも悲しみはうつ病に、不安は不安症(不安障害)という精神疾患に繋がるが、怒りがちであったとしても「怒り病」とか「怒り症」と言った名称の精神疾患はない、と言うのだ。
そう言われると、確かにそうだ。西洋医学の疾患一覧であるICDに「怒り症」とか「怒り障害」という概念はない。しかし、周りからみて別に怒るほどのことではないことにいつも怒っている人、イライラしている人は、少なくとも「精神的に正常」とは言えないだろう・・・と書いてきて「あ、それって俺のことだ」と気がついたが。
中医学(中国伝統医学)にはたくさんの「怒り障害」に該当する弁証概念(診断概念)がある。肝火上炎、肝郁化火、心肝化熱、心火などなど。
こういう四文字熟語を専門以外の人は読めなくてよいのだが、つまり中医学(中国伝統医学)には「怒りすぎる」事を病態と捉える概念がたくさんあって、しかもそれは五臓(心肝脾肺腎)のうち心臓と肝臓に直接的には由来していると考えられているという事を理解していただければよい。
たとえば私が若い頃認知症の人が精神不穏になるBPSDと言う症状に抑肝散という漢方薬が有効だと報告したが、「抑肝散」、肝(の高ぶり)を抑制する散剤というのが名前の意味だ。肝が高ぶるというのである。
西洋医学しか知らなければ、肝臓が高ぶるってなんのこっちゃなのだが、中医学の「肝臓」は西洋医学のLiverではない。現代医学には当てはめたら脳を中心とする様々な臓器の複雑な情報交換を包摂するのだろうが、ともかく内外のストレスに対して心と体の安定状態を保つシステムのことだ。生体は常に内外共に無数のストレスを受けているが、それに対して生体機能をある程度の幅で安定化させるシステムが存在する。それが「肝」だと中国人は指摘したのだ。
しかし、肝というシステムがあってもあまりにも膨大な、あるいは長期にわたるストレスが掛かればこのシステムは対応しきれなくなり、破綻してしまう。その初期を「肝気鬱結」と言い、いつも鬱々として、ここが悪い、あそこが悪いと言い出す。まあ、今の私だ。そこできちんと対応しないと、心(こころ)が制御できなくなり、ちょっとしたことで怒りを爆発させる。これを「肝熱化火」と言ったり「心肝化熱」と言ったりする。肝という生体安定装置が対応できないほどのストレスでこころが熱を帯びて怒るというのが「肝熱化火」だ。
「心肝化熱」というのは、中医学の「心臓」が何かを知れば理解できる。中医学に於ける「心臓」は、一面では西洋医学と同様血液を全身に送るポンプだが、一方で「睡眠覚醒のリズムを掌る」、「論理的な思考を掌る」システムだとされる。まあ、循環不全になれば実際意識低下を起こして論理的な思考など出来なくなるから、「そういうことは一つのシステムになっている」と考えたのだろう。従って、心火というのは要するに「あれやこれや考えすぎてオーバーヒートしてしまう」という意味だ。いやこれも今の私なのだが。
毎日の売り上げ、患者数、何所にいくら支払う、あのスタッフどうも最近元気なさげだ、大家との家賃交渉だ検査機器が壊れただと「あれやこれや」考えることが多すぎると心(しん)はオーバーヒートしてイライラするわけだ。それを安定化させるシステムが肝なのだが、そういう状態ではもはや肝のスタビライザー機能も目一杯だから、両方が一緒になって燃え上がってイライラすると言うのが「心肝化熱」だ。
西洋人だって、怒りっぽい人なんかいくらでもいる。いつだってイライラしている人は、欧米社会でも「正常な精神状態」とは看做されないだろう。しかしそういう状態は西洋医学では病態概念として確立していないが中医学ではきちんと病態として認識されているというわけだ。
西洋医学ないし現代医学が中医学から学ぶべき事は、まだまだたくさんある。
「内科医が支えるメンタルヘルス」というのだ。
その冒頭で昭和大学ストレス・マネジメント研究所の中尾睦宏先生という人が、面白いことを書いていた。
人間の感情は、幸せ以外は殆ど否定的な感情である。中でも悲しみはうつ病に、不安は不安症(不安障害)という精神疾患に繋がるが、怒りがちであったとしても「怒り病」とか「怒り症」と言った名称の精神疾患はない、と言うのだ。
そう言われると、確かにそうだ。西洋医学の疾患一覧であるICDに「怒り症」とか「怒り障害」という概念はない。しかし、周りからみて別に怒るほどのことではないことにいつも怒っている人、イライラしている人は、少なくとも「精神的に正常」とは言えないだろう・・・と書いてきて「あ、それって俺のことだ」と気がついたが。
中医学(中国伝統医学)にはたくさんの「怒り障害」に該当する弁証概念(診断概念)がある。肝火上炎、肝郁化火、心肝化熱、心火などなど。
こういう四文字熟語を専門以外の人は読めなくてよいのだが、つまり中医学(中国伝統医学)には「怒りすぎる」事を病態と捉える概念がたくさんあって、しかもそれは五臓(心肝脾肺腎)のうち心臓と肝臓に直接的には由来していると考えられているという事を理解していただければよい。
たとえば私が若い頃認知症の人が精神不穏になるBPSDと言う症状に抑肝散という漢方薬が有効だと報告したが、「抑肝散」、肝(の高ぶり)を抑制する散剤というのが名前の意味だ。肝が高ぶるというのである。
西洋医学しか知らなければ、肝臓が高ぶるってなんのこっちゃなのだが、中医学の「肝臓」は西洋医学のLiverではない。現代医学には当てはめたら脳を中心とする様々な臓器の複雑な情報交換を包摂するのだろうが、ともかく内外のストレスに対して心と体の安定状態を保つシステムのことだ。生体は常に内外共に無数のストレスを受けているが、それに対して生体機能をある程度の幅で安定化させるシステムが存在する。それが「肝」だと中国人は指摘したのだ。
しかし、肝というシステムがあってもあまりにも膨大な、あるいは長期にわたるストレスが掛かればこのシステムは対応しきれなくなり、破綻してしまう。その初期を「肝気鬱結」と言い、いつも鬱々として、ここが悪い、あそこが悪いと言い出す。まあ、今の私だ。そこできちんと対応しないと、心(こころ)が制御できなくなり、ちょっとしたことで怒りを爆発させる。これを「肝熱化火」と言ったり「心肝化熱」と言ったりする。肝という生体安定装置が対応できないほどのストレスでこころが熱を帯びて怒るというのが「肝熱化火」だ。
「心肝化熱」というのは、中医学の「心臓」が何かを知れば理解できる。中医学に於ける「心臓」は、一面では西洋医学と同様血液を全身に送るポンプだが、一方で「睡眠覚醒のリズムを掌る」、「論理的な思考を掌る」システムだとされる。まあ、循環不全になれば実際意識低下を起こして論理的な思考など出来なくなるから、「そういうことは一つのシステムになっている」と考えたのだろう。従って、心火というのは要するに「あれやこれや考えすぎてオーバーヒートしてしまう」という意味だ。いやこれも今の私なのだが。
毎日の売り上げ、患者数、何所にいくら支払う、あのスタッフどうも最近元気なさげだ、大家との家賃交渉だ検査機器が壊れただと「あれやこれや」考えることが多すぎると心(しん)はオーバーヒートしてイライラするわけだ。それを安定化させるシステムが肝なのだが、そういう状態ではもはや肝のスタビライザー機能も目一杯だから、両方が一緒になって燃え上がってイライラすると言うのが「心肝化熱」だ。
西洋人だって、怒りっぽい人なんかいくらでもいる。いつだってイライラしている人は、欧米社会でも「正常な精神状態」とは看做されないだろう。しかしそういう状態は西洋医学では病態概念として確立していないが中医学ではきちんと病態として認識されているというわけだ。
西洋医学ないし現代医学が中医学から学ぶべき事は、まだまだたくさんある。