石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
ネリジャー(禁止)に逆らえなかった話
2025/04/13
1990年、末期ソビエトを旅したとき、全ては「ネリジャー、禁止」だった。たとえばシベリア鉄道で酒を飲むのも食堂車医学では禁止されていたが、その殆どは一枚の「ドーラル」つまり1ドル紙幣でダダダダダー、Every thing OKになった。たった一回ネリジャーをひっくり返せなかったのは、エルミタージュ美術館で、私が買ったばかりのソニー製のビデオを廻していたときだ。柱の陰に座っていた中年女性の美術館員がつと立ち上がって、静かな声で「マラドーイ・チェラヴィエク。スュダー・ヴィージオ・ネリジャー」と言った。その迫力には、逆らえなかった。彼女は極めて静かな口調でそう言ったのだが、そこには逆らいがたい何かがあった。私はすごすごとソニー製のビデオを引っ込めた。
マラドーイ・チェラヴィエクを英語に訳せばyoung manだが、ロシア語のマラドーイ・チェラヴィエクは英語のyouung manではない。「お若い方」という古風な日本語が似合うだろう。非常に丁寧だが、公的な言い回しだ。こう呼びかけられると、こちらはもうそれで萎縮してしまうのだ。「スュダー・ヴィージオ・ネリジャー」、ここはビデオは駄目よ、と言うのだ。非常に静かな物言いだが、反論できない。
ロシア語は非常に複雑なニュアンスを持つ言語であって、理解すればするほど難しい。