石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
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投稿日時:2023/07/14
さて、前回高血圧でご好評を戴いた生活習慣病はもう止めようシリーズ第二弾は、糖尿病です。このお話に登場する主要キャラの一つインスリンが何か一言言いたいそうです。
インスリン「私を使ってダイエットするのは止めて下さい!私は身体の中で脂肪のもとを作ってるんですから!」
だ、そうです。インスリンが言わんとする意味はおいおい明らかになります。
さて、糖尿病とは血糖値が上がる病気です。いや正確に言うと、血糖値が下がりにくくなる病気です。人の体内で、血糖値を上げる物質はたくさんあります。成長ホルモン、副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)、副腎髄質ホルモン(カテコールアミン)、甲状腺ホルモン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓から出るグルカゴン等々(別に覚えなくて良いです)。それに対し、血糖値を下げる仕組みは1つしかありません。インスリンが働く系統です。
糖というのは言うまでも無く生体に於いて重要なエネルギー源です。身体のエネルギーを貨幣に例えると、手持ちの現金が糖です。日々使います。普通預金はグリコーゲンです。肝臓や筋肉に貯えられます。万一のための定期預金や年金として積み立ててあるのが脂肪です。あれっていざというときのために積み立てているのですが、現代人はどう見ても積み立てすぎですね・・・私含む。ついでに偽金もあります。いよいよエネルギー源が枯渇して餓死寸前となると身体は脂肪酸からケトン体という偽金を作り出し、これでどうにか生き延びようとします。
血糖値が下がるというのは危機なのです。全ての細胞がエネルギー供給を断たれ、死の危険にさらされます。だから万が一にもそういうことが起きないよう、血糖値を上げるメカニズムはたくさん用意されています。
一方下げる仕組みはインスリンだけです。人類の歴史を振り返ると、そもそも糖の原料を食物として得ることは至難の業でした。人類はおよそ500万年前にアフリカで誕生したと言われますが(ざっとね)、その人類が糖の原料として炭水化物を安定的に確保出来る道が拓かれたのは穀類の栽培に成功した時です。これは僅か一万数千年前です。チグリス・ユーフラテス川流域における小麦の栽培と、長江流域における稲の栽培がこの頃相前後して始まっています。それまで499万年間、人は糖の原料を安定して得ることは不可能だったのです。従って、少しでも血中に糖が余れば、それを肝臓や筋肉に送って貯えさせます。その働きをするのがインスリンです。インスリンによって肝臓や筋肉細胞に送り込まれた糖は先ほど述べたグリコーゲンとなり、それも余っていれば脂肪に作り替えられます。いったんゲットした糖を必要以上使わず溜め込む仕組み、それがインスリンです。冒頭でインスリンが「私は脂肪を作っている」と言ったのはそういうことです。血糖を上げる仕組みはたくさんあって、どれかがダメになっても他が働くのですが、血液から糖を運んで筋肉や肝臓に送るのはインスリンだけですから、インスリンが無かったり活性が下がると代替手段がありません。血糖値は上がり続けます。これが要するに糖尿病です。昔は尿に糖が出て甘くなってからでないと診断出来なかったので「糖尿病」という名前になりましたが、今はもちろん血糖値、そしてその直近一ヶ月の平均値を反映するHbA1c(へもぐろびんえーわんしー)で見ていくことは、中年過ぎた方々はほとんどご存じと思います。
膵臓でインスリンを出すベータ細胞そのものが壊されてしまうのが1型糖尿病ですが、これは糖尿病の5%程度です。当然ながら1型は生活習慣とは何の関係もありません。しかし私を含む中年以降の多くの方が悩むのはこれではありません。2型の方です。
ここで白状してしまうと、2型糖尿病にはもちろん食事が大きく関わっています。だから生活習慣病で良いだろうと言われれば、確かにそうです。しかし2型糖尿病はそれだけでは説明出来ません。もうちょっと2型糖尿病の話を続けます。
2型糖尿病では2つの現象が起こります。1つはインスリンは出ているのだが、肝臓や筋肉でその指令を上手く受け止めることが出来ず、糖がグリコーゲンなどに変換されなくなる現象と、インスリンの分泌そのものが下がって血糖値がコントロール出来なくなる現象です。
何度も言ったように血糖値を下げる仕組みはインスリンしかありません。従って絶えず血糖値が高い状態に晒されると、このインスリン系が疲弊してしまうのです。他の手段が無いからですね。いつもいつも血中に糖が入ってくる。インスリンはそれを必死に肝臓や筋肉に運ぶわけですが、あまりそれが続くと、肝臓や筋肉が「もう一杯です。これ以上お受け出来ません」となるのです。なんかコロナで医療崩壊した時の救急病院みたいです。「完全満床です。これ以上病人(糖)を救急車(インスリン)が運んできても、当院は対応出来ません」というわけです。医学用語では「インスリン抵抗性がある状態」です。
この時点ではインスリンは何とか血中の糖を処理しようと過剰に分泌されますが、こういう状態が長く続くと今度は膵臓のベータ細胞がインスリンを作る機能が麻痺します。俺、必死に頑張ってインスリン出したけど、誰も助けてくれねえし、もう限界だ、となるわけです。
最初の筋肉や肝臓がインスリンの指令を受けられ無くなった状態、つまりインスリン抵抗性に作用するのが飲み薬の糖尿病治療薬です。一番代表的なものはメトホルミンです。他にも色々ありますが。一方膵臓のベータ細胞がインスリンを作れなくなってしまうとしかたが無いからインスリンを注射します、と言うことになります。
さて。ここまで読んできて、「どうして糖尿病は生活習慣病という事に異を唱えるのか?」と疑問に思われるでしょう。それは、2型糖尿病は遺伝するからです。2型糖尿病は食習慣も確かに関わりますが、その発症は遺伝が大きく関与します。両親ともに糖尿病であれば、その子供は40~50%の確率で糖尿病になります。私は糖尿病ですが、父も糖尿病でした。
正確に言うと、遺伝するのは「糖尿病になりやすい体質」です。すなわち高い血糖値が続くことに対して、先ほど述べたインスリン抵抗性やインスリン分泌の枯渇が起きやすい体質が遺伝します。同じ生活習慣でも、糖尿病になる人とならない人がいるのはこのためです。もちろん、糖尿病として発症するためにはそこに環境負荷、つまりエネルギー摂取過剰が加わって発症するので、もちろん生活習慣、特に食習慣が影響するのですが、元々発症しやすい遺伝形質を持つ人とそうでない人がいるのだ、と言うのはあまり知られていません。だから敢えて異を唱えているのです。ちなみに膵臓のベータ細胞が自己免疫によって壊されてしまう1型は一見遺伝しそうで遺伝しません。遺伝しないと言ってもある種の遺伝子異常が関係はしているのですが、遺伝するかしないかで言えば2型糖尿病になりやすい体質の方がずっと遺伝傾向は顕著なのです。
どうしてこういう体質が遺伝して残っているのでしょうか。答えはおそらく人類史にあると思います。人類誕生以来500万年、そのうち少なくも499万年間は、人類は常に飢餓すれすれの状態にあったのです。いくらインスリンという血糖値を下げ肝臓や筋肉に貯える仕組みがあると言っても、それが実際に必要となることはほとんど無かったでしょう。むしろ血糖の原料となる炭水化物を得るのが非常に困難な状態が続いたわけです。穀物の栽培が可能になった後でも、世界中の人類がそれでたらふく食えるようになったわけでは無い事はご存じの通りです。今だって栄養失調や餓死が日常的な地域は少なくありません。だからインスリン系統が充分に働かない体質というのは、それほど生存に困難は来さなかったのです。人類史500万年の中ではほんの一瞬に過ぎない「飽食の時代」になって初めて、それが「不都合な体質」となったのです。
糖尿病についてはこんな所です。生活習慣とは一切関係が無い1型が5%あるということ、95%を占める2型は生活習慣と遺伝する体質が相まって発症するものだという事をご理解戴ければ幸いです。
最終回の次回はコレステロールです。大どんでん返しがおきます。
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投稿日時:2023/07/12
生活習慣病という言葉は聞いたことがありますよね。なんとなく「生活習慣によって引き起こされる、色々将来に悪いことが起きる病気」というイメージでしょう。それでだいたい当たっています。
三大生活習慣病は、高血圧、糖尿病、高脂血症(高コレステロール血症)です。ぶっちゃけ簡単に言ってしまうと、この三つはどれも「動脈硬化に繋がる」という共通の性質を持っています。動脈が硬くなると脆くなって破れやすくなり、また血管の壁が厚くなる一方血管は狭くなり、血管の壁はでこぼこしてきますので血液が渦を巻いて血栓、つまり血の塊が出来たりします。そうすると血管が詰まったり血栓が脳の血管を塞いだりします。つまり脳卒中や心筋梗塞などが増えるというわけです。だからこの三つを治療しましょうという話になっています。
昔はこういうのは「成人病」と言われていました。40代頃から歳と共に増えてきますのでそう言われたのです。それを「生活習慣病」と言い換えたのは日野原重明と言う人です。日野原さんは晩年聖人君子のように祭り上げられ、特に看護業界では伝説の人になっていますのであの人の悪口を書くと看護師が怒るのですが、実はいろいろ裏表がある人です。ってか裏表がない人なんていないか。
それで彼は成人病と言われているものは実は生活習慣が深く関係していて、生活習慣を改めれば減るのだという考え方の元に「生活習慣病」という言い方を広め、それに厚労省が飛びついて「生活習慣病」が定着したのですが・・・。
実はあんまりそうでもないのです。この「常識」は最近の内科学ではどんどん覆されています。
まず高血圧。塩分を控えましょうと言います。塩分を取り過ぎると血圧が上がるのは大昔から分かっており、事実です。しかし食事中の塩分がめっちゃくちゃ高く、超しょっぱいものを食っていてそれで脳卒中が多かったというのは、かなり昔の日本の話です。高血圧になる人の約9割は「本態性高血圧」です。「本態性」というのは「なんだか原因がよく分からない」というのを医者が偉そうに言い換える言葉です。本態性高血圧の原因は、まさに「よく分からない」のです。よく分からないのですが、ともかく歳を取るとともに増えるのは事実です。高血圧と一番相関するものは「年齢」です。「歳と共に増える」のです。もちろん歳を取っても血圧が上がらない人もいます。上がる人と上がらない人は何が違うかと言っても、正直よく分かっていません。分からないから本態性なのです。
いくら分からないと言っても、臨床をやっていて目の当たり明らかな要因はあります。ストレスです。ストレス掛かれば血圧上がるのは常識だし、これは本当のことです。そして人生はほとんど全てストレスです。人生からストレスを除くと、残るものは多分極めて少ないでしょう。だから普通に生活して仕事をしている限り、ストレスはかかり続けていますので、血圧は上がっていきます。
この事実は医者にとっては非常に身近な証明があります。入院患者は血圧が下がるのです。え?入院ってめちゃくちゃストレスじゃ無いの?ある意味ではそうです。しかし別の意味では入院生活はストレスフリーです。というのはですね。
入院生活というのは、簡単に言うと極めて不自由な生活です。食べられるのは病院食、着るものは病衣で、全て病院から格安で提供されますが、好き勝手にものを食べたり、あれを着たりこれを着たりっていうのは出来ません。全て病院にお任せで、自分が判断することはほとんど無いのが入院生活です。何より、仕事から(一応)切り離されます。まあ最近は皆さんスマホを持って入院していて、そうするとラインやメールで入院中も仕事が追いかけてきますが、少なくとも普通に生活している状態よりは確実に仕事は減ります。そうすると、血圧は下がるのです。
いやいや、入院患者で血圧が高い人は高血圧食を出されるからだろうって、多分それはあまり関係ありません。老人病院のように長く入院する時は別ですが、一週間とか二週間だけ入院しても血圧は下がります。あれは病院食のせいではないです。「自分でものを決めなくて良い生活」って、ストレスフリーなんです。少なくともほとんどの日本人にとっては。だから高血圧の人が何かで入院すると10や20は平気で血圧が下がります。主治医は慌てて降圧剤を減らさなければならなくなります。しかし退院すると元に戻ります。この現象は、ほぼほぼストレスで説明出来ます。不自由な生活はストレスが減るという事は、つまり自由な生活はストレスが多いってことです。自由ってストレスなんですね・・・。
ストレスも生活習慣から来るのだから生活習慣病で良いじゃ無いかと言われれば、それは一応もっともです。ですが先ほども書いた通り、人生からストレスをさっ引くと後にはほとんど残るものがありません。生きるってほぼほぼストレスです。血圧が高いからと言って塩分を控えましょうとかやると、それ自体ストレスになります。生きるという事はストレスなんですから、ストレスを無くすというのはまあ、無理です。無理なことをやろうとするとさらにストレスが増えます。
要するに高血圧の9割は「本態性」で原因がよく分からないけれど、一番関係しているのは年齢で、しかもストレスが絡んでいるのは間違いなく、かつ人生はストレスであるという事になれば、高血圧は生活習慣病である、と言うのはあまり意味が無いです。出家して悟りでも開けば別なのかも知れませんが、私を含めてほとんどの人はそう言う事は無縁ですので、「生活習慣を改めて血圧を下げる」というのは諦めた方が良いです。そんなことを頑張ると、それ自体がストレスを増やすだけです。
と言うわけで、高血圧は生活習慣を改めれば改善するというのはあまり当てにならない話です。歳と共に血圧が上がって本態性高血圧ですと診断されたら、おとなしく薬飲みましょう。そういう諦めがおそらく一番ストレスを減らしてくれますから。
本当は高血圧、糖尿病、高コレステロール血症の三つを話したかったのですが、血圧だけで話が長くなりました。後の二つはまた次の機会に。 -
投稿日時:2023/07/11
7月9日は当院が石巻の休日当番医でした。合計47人の患者が来ましたが、ざっと40名以上は発熱ないし風邪症状の患者です(途中から何人だったかなんて数えなくなりましたが)。
この日がおそらく発熱外来と熱中症で埋まるであろう事は前もって予測していたので、私は一番近いいつもお願いしている薬局にこうした上気道炎と熱中症に使う漢方をできる限りかき集めて貰っていました。その薬局は本来日曜は薬剤師がいないのですが、その日は当院の休日当番に合わせて臨時出勤してくれたのです。
しかし昼頃、薬局から電話が掛かってきました。「麻杏甘石湯と柴陥湯がほとんど底をつきました」。「五虎湯はまだある?」と訊いたら「あります」というのでじゃあ大丈夫と思いました。
午後も患者は途切れません。また薬局から電話がありました。「ちょっと一人で対応しきれないので漢方以外の薬はイオンモールの薬局に流してください」。了解、と言ってハチ刺されのプレドニンや帯状疱疹のバルトレックスなどの処方箋は全部イオンモールの薬局に送りました。
4時頃になってまた電話があり、「白虎加人参湯がもうないです」。しかたが無いので熱中症には越婢加朮湯と桔梗石膏を病名は適当に付けて出しました。要するに石膏をたくさん出してついでに補脾した訳です。
昨日は非常に蒸し暑く、次から次から発熱の人が押し寄せますので院内にこしらえた二つの発熱外来では到底廻せず、発熱患者さんはほとんど車で待機して貰いました。ところがそうすると、コロナの人が同時に熱中症になってしまうのです。点滴しようにも場所が無い。当院の救急カートにも白虎加人参湯を一箱準備していたので、そういう人は点滴のブースが空くまで白虎加人参湯をクリニックの水道の水で飲ませて急場を凌ぎました。
去年の夏に流行ったコロナはほとんど典型的な傷寒太陽病の様相を呈していましたが、今年は高熱とともにまず喉、そして初期から往来寒熱を呈して少陽病を思わせる所見が多く診られます。暑いか寒いかと訊くと暑いというのですが、より詳しく聞くと単に熱感がするのでは無く往来寒熱しているようです。XBBに株が変わったことと関係があるのかどうか、私には分かりませんけど。
10月にまた休日当番があるんです。それと来年元旦も。敵わんなあ。 -
投稿日時:2023/07/03
マイナンバーカードに保険証の機能を組み合わせるという国の政策が表明されています。2年後に現在の保険証を廃止し、全面的にマイナンバーカード保険証に移行させると言います。しかし当院及び院長である私は、この件に極めて憂慮を持ち、非常に懐疑的です。
2021年時点で国がマイナンバー事業に投じた総額は8800億円だったそうですが、マイナポイントとか言うものにさらに1兆8千億円を投じるそうです。総額3兆円近い事業に膨れ上がったわけです。ところがつい先日もマイナンバーカードを使った証明書交付サービスで、住民票の写しを誤交付するトラブルが生じるなど、トラブルが相次いでいます。公金受取口座で本人ではない家族名義の口座を登録してしまったエラーが約13万件も確認されるなど、トラブルは枚挙にいとまがありません。
そりゃ巨大なシステムを作る時、初期故障はある程度避けられないでしょう。しかしそれだからこそ、本格運用に踏み切る前になんども色々な場面で予行を重ねるべきでした。線路敷いて車体作っていきなり翌日から走る電車は無いわけです。必ず実際の線路で何度も何度も走らせてみて、初期故障を確認して修正し、これなら客を乗せても大丈夫となって初めて開業するわけです。しかしこの制度について国は予行演習も何もなく、「とにかく実際に走らせてしまおう」という態度です。いやそれはないでしょうと思います。
マイナンバーカードの一番の本質は本人確認のための身分証明書の筈です。それなら、当然各人のもっとも基本的な個人情報がそこに入ります。そう言うものが「他人と間違えた」とか、酷いのになると浜松市で起きた事例で「自治体がマイナンバーカードに誤って他人の顔写真を貼り付けた」など、ちょっとトラブルの次元の低さに唖然とします。3兆円使って何やってんだか。日本医師会も「反対はしていないが、マイナンバーカードの普及率を考えると、2年後に廃止することには懸念がある」とHPで公式に意見を表明しています。しかし私は普及率以前の問題として、患者本人の健康情報に紐付けられている「健康保険証」をこの惨憺たる状況のシステムに乗せるというのは、はっきりと反対します。今の混乱状況が2年後に信頼できる制度になっているかどうか、極めて疑わしいです。当院はマイナンバーカードシステムに関わる現状が全面的に改善され国民の信頼を得るに至るまで、この制度に保険証を紐づけることには反対を表明します。 -
投稿日時:2023/07/03
先日「胃腸の具合が悪い」と言ってオンライン漢方診療にかかられた人がいました。色々症状は聞いたのですが、実はこの方が現在服用されている薬の一つが、高頻度に吐き気や下痢、便秘、胃もたれ、胸焼けなどを起こすというのです。その薬は私が判断するに一時中止して見ても差し支えはないものだと思いました。それで、私はその人に「まずはその薬を止めてみて下さい。2週間止めても胃腸の具合が悪かったら漢方診療を考えます」と言いました。
「怠さと疲れやすさ」で受診してきた人もいます。それだけ聞くと如何にも漢方が向きそうです。しかしよく話を聞いてみると、「夜間熟睡出来ない」、「最近15キロ太った」と言い、「既往歴に高血圧がある」そうです。
そこで私はその人に訊きました。
「いびきはかきませんか?」
そうしたら「そうです。私いびきが酷いんです」というわけです。
「佐藤さん(仮名)、漢方の治療は後回しです。あなたは睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いです。病院で検査を受けて下さい」と言ったらその方は大変びっくりして、そんな病気があるなんて知りませんでした。さっそく検査を受けられる病院を探します」という事になりました。
こちらはリアル外来に来た方ですが、若い女性が「足元が冷えて疲れやすい」と言って漢方治療を希望されましした。「当帰芍薬散が効くとは思いますが、本物の貧血や甲状腺機能低下症でもそういう症状は起きますからまずはその検査をします」と検査しました。その結果は週明けに出るはずです。
こう言うことをきちんと考えられない漢方医って、ダメなのです。単に症状を聞いて、何かの漢方ハウツー本で「ハイこれ」と漢方を出す漢方医に掛かるのは、危険です。当院の漢方診療は、そういうことをきちんとやれる漢方医がやっております。 -
投稿日時:2023/06/30
いつも血圧やら不眠やらで通ってくる71のおばさん(最近の71はまだお婆さんじゃないです)が「今日は腰が痛くて」と言いながら診察室に入ってきた。ぶつけたかなんかした?いやいつも時々やるんです、ぎっくり腰、と言うから、じゃあそこの診察ベッドにうつ伏せになって、と言い、痛いところ出して、と言ったらだってお尻だものと言う。71のあなたが58の私に恥ずかしいも何も無いでしょと言ったら「あら女は何歳になっても恥ずかしいわよ先生」。
はいはいそうですか、と聞き流しながらお尻をべろんと出させて、何処が痛いの、と訊くと腸骨のちょうど真ん中辺りを触る。
腎輸と命門、両側の大腸輸、そして痛む場所にパパッと鍼を打ち、私が処方打ち込むまでそのままね、と言った。通導散と治打撲一方を電子カルテに入力し、今日は血圧の薬にいつもの下剤と今日出す漢方だけと言ったら、「いつもの漢方はどうするんですか」と言うから「漢方は先急後緩と言って、急に来た症状を先にして、慢性症状は急性の症状が取れた後に治療を再開するんですよ」と教えた。そこまでかれこれ10分。
さあ抜きますね、と言ってちょっと捻鍼しながら抜針し、立って歩いてみてと言うと「ベルトしないと」。「いやベルトしないで立って歩いて」と言った。患者さんこわごわ立って歩く。
あら!痛くない!痛くないわ先生!
とりあえず今薬局によっておうちに帰れる時間だけ痛みを止めました。でもこれは一時的ですから、後は羌出した漢方飲んでくださいねと言って帰した。鍼はともかく即効性があります。医者が鍼を打つ権限はあるのですが、保険診療と同時にやってこ金を取ると混合診療と言ってこれは出来ません。勿論日を改めて鍼だけやれば自由診療でお金は取れますが、鍼はともかく「今、その場で痛みをとる」ためにやるので、日を改めてというわけにいきません。結局ただでサービスになってしまいます。まあ患者さんが集まってくれたらいいかなと。
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投稿日時:2023/06/26
コロナ感染後2ヶ月から咳が止まらないという方が当院のオンライン漢方診療に受診されました。その方は別の方のご紹介だったのですが、今日そのご紹介くださった方から、「あの人はそちらの漢方薬を飲んだら2ヶ月続いた咳が三日で止まった」と大変驚き、喜んでいたというのです。念のため先ほどご本人にも電話して、ご紹介いただいた方からこう聞きましたがと伺ったところ、「はいそうです。劇的に止まりました。大変助かりました」と言われます。
こういうのを疑り深い医者は「その人は2ヶ月咳が続いたのだから、ちょうど自然に治るタイミングだったかもしれないじゃないか」と言うのですが、どうですかねえ。普通に考えて、そう言う可能性を主張するのは、ちょっと無理っぽいだろうと思います。そう言う可能性を私も完全には否定しませんが、まあ可能性としては低い。それよりは漢方が効いたと判断するのが常識的でしょう。
使ったのはツムラのエキスにもなっている五虎湯(ゴコトウ)をベースに、カロコンとバクモンドウと言う生薬を加えたものです。配合比は明かせませんが、バクモンドウは一日30g使いました。ツムラに麦門冬湯(バクモンドウトウ)って言う咳止めがありますけど、あれにはバクモンドウが1日分で10gしか使われていません。それでは効かないです。30gは私としては最低量でした。しかもバクモンドウはこの煎じ薬処方の中では補助的な役割でしかないです。主役は五虎湯でが、その生薬の配合量や比率も、ツムラのエキスとは全く違います。そもそも漢方はその人の症状やその程度に応じて生薬の量や比率を変えるのが本来のやり方なのです。もし長引く咳でお困りの方は、当院の漢方内科、あるいはオンライン漢方診療をどうぞ。なおこの話は、ご本人の了解を得て掲載しております。
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投稿日時:2023/06/24サービス付き高齢者向け住宅、通称「さこじゅう」で働くヘルパーが、職場の上司の対応が不満で体調が悪いと受診してきた。ヘルパー2級でまだ二年目だそうだ。一年目は日勤が主で、その頃は割と問題なく働けていたが、二年目になったら夜勤が多い部署に廻された。そうしたら夜勤帯での仕事がうまく出来ないという。
施設としては、まず初年度は日勤で仕事を覚えさせ、二年目になったから夜勤もやらせたという事だろう。だが日勤と夜勤とでは仕事の中身が全く違う。スタッフの数自体少ないし、急変対応を迫られるのも夜勤帯が多い。彼女にはまだ無理があったようだ。
上の人には相談した?と訊いたら、「リーダーに相談したら自分で考えなさい、としか言ってくれないんです」という。うーん、そうか、リーダーの上は?と訊くと「施設長は自分は管理しかしていなくて現場は分からないからリーダーに訊きなさいと言うんです」というわけだ。そうか、それはリーダーの対応にも問題があるね、と私は頷いた。あなたはまだ二年目で、夜勤は今年からだから、リーダーはあなたが困っていたらちゃんと指導してあげる必要があるよ、と言った。そうしたら本人曰く「リーダーは自分は夜勤しないんです。それなのに夜勤している私には何も教えてくれなくて」という。
そこでちょっと彼女には一から教えてあげないといけないな、と気がついた。
実は僕はこうして心療内科もやっているけど、もともとは老年科医だ。高齢者医療が専門だから、福祉介護の現場はよく知っている。そういう介護施設のリーダーは、日勤の通常業務をこなしながら、スタッフの指導もしなくちゃいけないし、利用者家族の対応もしなくちゃいけないし、役所やケアマネとも連絡を取らなきゃならないし、書類仕事は山のようにある。リーダーも夜勤しろというのは無理なんだよ。
彼女は渋々頷いた。
確かにリーダーがきちんと指導してくれないのはリーダーにも責任がある。だけど実はリーダーも含めて、介護施設のスタッフはあなたもそうだが、みんな最小限の人数でギリギリ仕事をこなしている。わかるだろう?
これには彼女も深く頷いた。
君は今自分が大変だと思うだろうが、「さこじゅう」は実はまだましな方だ。利用者は少人数だし、割とお金に余裕がある人しか入らない。介護度も高くない。これが特別養護老人ホームとか老健施設とかになれば、一施設通常利用者100人。介護度は遙かに重い。各階をワンフロアとしてヘルパーが日中ワンフロアにいても三人。看護師はワンフロアに一人だ。夜は看護師一人か、看護師がいない施設もある(夜間看護師がいない施設では看護師はオンコール)。老健の施設長は医者だけど、老健の医者の給料は病院よりずっと安いから、引退した医者が楽な仕事としてやっているだけで、夜間休日は一切対応しない。そういう所の介護士の仕事は、あなたがいるさこじゅうとは比べものにならないぐらいきついよ。何故こうなっているか分かるかい?
彼女、戸惑う。
それはね、そもそもこの日本という国が、介護なんてものは余計な出費だ、老人施設などというのは安ければ安いほど良いのだと考えているからさ。あなたの給料も安いだろうけど、その安い給料で、かつ最低限のスタッフで廻さないと施設が経営出来ない仕組みになっている。この国は、介護だ福祉だには、なるべく金を掛けたくないんだ、金持ち相手は別にしてね。わかるかい?
彼女、ついに深く頷く。「分かります」と言った。
あなた23ですよね。選挙権がある。選挙って行ったことある?
本人、首を横に振る。
選挙に行かなければ、政府は「ああ、国民は今のやり方で良いと思っているんだ」と考えるんだ。今多くの人が選挙に行かない。そうすると、何時までも介護福祉はこのままなんだよ。
彼女は黙ってしまった。政府が介護福祉を安上がりにあげようとしていることは理解出来たようだが、「選挙」という言葉には抵抗があるらしい。
仕事は続ける?職場変わりますか?と訊いたら、今の仕事は辞めたいから診断書を書いてくれと言い出した。
ほらほら、またあなた欺されてる。医者の診断書が必要なのは就職する時と休業する時だけだ。辞めるのに診断書って要らないよ。と言ったら彼女、びっくりした顔をした。
だからね、この国では働く人必要なことは、学校で何一つ教えないのさ。その方が偉い人たちには都合が良いからね。
彼女はしばらくうつむいて黙っていたが、「はい。でも診断書貰ってこいと言われていて」と言った。
そこで診断書を書き、職場の人間関係で反応性うつ病となっているので職務継続は不可能と考えると書いた。薬は出さなかった。だってその子、退職したらたちまちよくなるんだから。
なかなか、今の若い子は、この社会の矛盾の真っ只中で振り回されながら、今自分が何故困っているのか、それを変えるには何をしなければならないのか納得させるのは難しい。「選挙」とか「投票」という言葉に本能的拒否反応を示すほど洗脳されている。実にこの国の教育は素晴らしい。この国は形の上で選挙権はあるが、実は国民が選挙権を行使しないように仕組んでしまった。たいした腕前だ。
本当は60分以上話をしたから通院精神療法初診5400円取れるんだけど、どうせお金はないんだろうから、30分という事にして3400円にしておいた。私も経営者としてこんな甘い事じゃいけないんだが、まあ診断書作成料3000円はもらえたからね。
一開業医、町医者が出来ることには限界がある。しかし私は出来ることをやっている。この子達がいずれ社会の中堅になっていくんだから。 -
投稿日時:2023/06/23発熱外来にきた男性、2週間咳が続くという。もともと喘息がある。聴診すると右背部に喘息の雑音が入る。喘息の薬は何かと聞いたら、ベータ刺激剤の吸入だけだと。サルタノールという奴だ。その先生はこれしか出さないのかというと、出さないという。そのほかには風邪ひくと風邪薬を貰うだけだというから「その医者にかかっていたらあなた死ぬから。医者の仁義には欠けるけど、あなたの治療はこれから私がやる。仁義に欠けても患者の命には変えられない」と言って患者取ってしまった。「それから風邪ひいてもあなたは風邪薬飲んじゃダメだ。死ぬよ」と言って「この薬だけは飲んでいい」とソランタールを渡した。向こうにご報告をするつもりはない。だってもし何か向こうの医者に書くとしたら、悪口雑言の羅列にしかならないからだ。七十代の内科医だそうだが、やっぱり医者も七十代になると色々、ダメだ。
解説。喘息の基本治療は吸入ステロイドです。ベータ刺激剤は一時的な気道拡張作用がありますが、気道の炎症を抑えることはないので、発作のたびにベータ刺激剤で誤魔化していると、そのうち炎症が進み大発作を起こして時には即死します。また喘息患者が一般の風邪薬に含まれる解熱鎮痛剤NSAIDSを飲むと喘息発作を起こすのは有名です。喘息患者が飲んで良い解熱鎮痛剤はごく限られます。昔から定評があるのはソランタールです。薬局の風邪薬を買って飲んでもダメです(葛根湯など漢方の風邪薬はOIK)。
素人が知らないのは仕方がないとして、喘息の患者にステロイドの吸入薬を出さず、風邪ひいたら風邪薬を出す医者というのは患者殺したいのかって話です。 -
投稿日時:2023/06/19今日、膀胱炎で他のクリニックから抗生剤(抗生物質)を出されているけど直りませんという患者さんが来ました。何が出ていますかと見せてもらうと、メイアクト。思わず内心舌打ちしてしまいました。メイアクトという抗生剤は、確かに抗生剤として売られてはいるのですが、効きません。全然、効かないのです。理由は簡単、腸管からほとんど吸収されないからです。昔は国が薬を認可するときに、腸管からきちんと吸収されるかを確認していなかった時代があり、その頃認可された薬の中にはこういうものがあります。抗生物質で言うと、「セフゾン」「フロモックス」「メイアクト」「バナン」「トミロン」(いずれも商品名)といった名前の経口抗菌薬です。これらは腸管から吸収されないので、効きません。もしこう言う抗生剤が出されたら、その医者は無知ですから、よその医者に行きましょう。石巻周辺の方なら当院へどうぞ。そもそも抗生剤が必要な状態かどうかも含めてきちんと診察、検査します。これ知らない医者は結構、います。かなり普通に出されています。困ったものです。