石巻あゆみ野駅前にあるあゆみ野クリニックでは漢方内科・高齢者医療・心療内科・一般内科診療を行っております。*現在訪問診療の新規受付はしておりません。
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投稿日時:2024/03/18
ご存じの通り、あゆみ野クリニックは漢方内科があります。漢方内科があると言っても要するに医者は私一人ですから、色々な患者さんに対して私が西洋医学と漢方医学を併用して治療するのです。どういうわけか私の脳はそこがデュアルモードで働きまして、目の前の患者さんに西洋医学と漢方医学、正確に言いますと中医学(中国伝統医学)なんですが、その二つの医学が同時回転します。
この記事を書いているのは令和6年3月18日です。3月16日、つまり一昨日の土曜日、10日に38度に発熱し、翌日11日に近医内科で検査を受けてコロナ、インフルエンザとも陰性だったという患者さんが来ました。16日に当院で検査をしたらインフルエンザBが陽性。でもそれは11日に検査した内科医院が不適切だったという事ではないです。10日は日曜日でした。患者さんは翌日月曜日にその医院を受診し、抗原定性検査でコロナもインフルエンザも陰性だったのです。だからそこでは解熱剤のカロナールだけが出されました。検査で陰性ですから、タミフルやイナビルのようなインフルエンザウィルスに対する薬は出しにくい。だからとりあえずウィルス感染症とみてカロナールのような一般的解熱鎮痛薬が処方されたのです。これは、誠に適切な対応であり、私も同じようにするでしょう。
ところがその人の熱は下がりませんでした。カロナールを飲むと多少下がりますが、薬が切れるとまた38度近くに上がります。それでその方は16日にあゆみ野クリニックに見えました。抗原定性検査をしたら、B型インフルエンザでした。10日に発熱し、11日の他院の検査ではコロナもインフルエンザも陰性でしたが、今日当院で検査したらインフルエンザBだったということです。
それは、そういうこともあるのです。あの検査は陽性は当てになりますが、陰性はちょいちょい外します。本当は新型コロナなんだが、あるいはインフルエンザなんだが、たまたま検査で陰性というのは、実は珍しくありません。その患者さんはその一人だったのです。
しかし、その方が発熱したのが10日で、16日にまだ38度の熱が続くというのはあまりない話です。成人のインフルエンザで38℃以上が6日間続くというのはそうそうない現象です。
考えた末、私はその患者さんにN95という医療従事者が付ける特殊なマスクをしていただき、院内に入れてレントゲンと採血をしました。採血は院外の発熱外来でも出来ますが、レントゲンは院内でしか出来ないからです。N95マスクというのはウィルス粒子ですら通さないという特殊なマスクで、当院で発熱外来の患者さんに対応するとき私を含めスタッフ全員がこのマスクを付けます。因みに普通のマスクは新型コロナ感染予防にはまったく無意味です・・・。
それで結局、レントゲンの結果その人は肺炎ではありませんでした。レントゲンで肺炎ではないことが確認出来たので、私は頭を漢方に切り替えたのです。
傷寒論(しょうかんろん)という非常に古い、いつ頃編まれたか分からないほど(伝説では後漢末、西暦2世紀頃とされます)古い中国の古代医学書に小柴胡湯(しょうさいことう)という処方が記載されています。傷寒論曰わく
「傷寒五、六日、中風、往来寒熱、胸脇苦満、その他その他の所見があれば小柴胡湯之を主る。ただし全ての症状が揃わなくてもよい」。
感染症を患い五,六日経って、熱が上がり下がりするときは小柴胡湯を使え、他に色々症状を伴うが、それは全て揃わなくてもよいと言うのです。この患者さんはまさにこれに当て嵌まっていたので、私は小柴胡湯を処方しました。しかし私の脳の半分が「細菌感染の可能性も考えろ」と言いましたので、採血もしました。患者さんには「もしこの採血で白血球やCRPと言った炎症反応がガバッと上がっていたらそれは細菌感染症と言うことだからペニシリンを処方します。しかし今日診察した限りでは細菌感染による肺炎などの所見はないので、まず漢方医学に従って小柴胡湯を出します。月曜日に採血結果が出ますから再来してください」と告げたのです。この方は今日18日に再来され、小柴胡湯を三日飲んだら熱は綺麗に下がったそうです。採血結果も問題ありませんでした。
私の中医学・西洋医学併用療法というのはこう言うようなものです。漢方に通暁した医者は大抵こう言う診療をするのですが、「日本東洋医学会認定漢方専門医」などと言う「なんちゃって漢方医」はこう言うことが出来ません。そもそも傷寒論のような古典を読んでいませんからね、ああいう専門医は。 -
投稿日時:2024/03/11
JAMAにXBB1.5株に対するワクチン接種はそれほど有害事象は心配しなくても良い、という論文が載りました。
XBB.1.5に対するワクチンを接種した65歳以上の集団について接種後28日以内に有害事象で入院するリスクが増えたかどうか調べたがそういうリスクは摂取しない群と比べて有意に増えてはいなかった。虚血性心疾患、脳梗塞、心筋炎などの重篤な有害事象は極めて稀であったという論文。いやしかしですねえ、XBBに対するワクチン接種が感染を有意に減らすとは考えられないし、重症化リスクをヘラと言ってもそもそもXBBは高齢者でも滅多に重症化しない。つまりワクチン接種のメリットが極めて少ないのだから、有害事象も少ないと言われても「じゃあ接種しましょう」とはならないだろ、ってのが私の意見。明らかなメリットがあるならデメリットと比較してどうかという話になるけど、そもそも臨床的に確かなメリットがはっきりしないんだからさ。
Andersson NW, Thiesson EM, Hviid A. Adverse Events After XBB.1.5-Containing COVID-19 mRNA Vaccines. JAMA. Published online February 26, 2024. doi:10.1001/jama.2024.1036
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投稿日時:2024/03/08
木村先生の本を外来において、こういう時一貫堂ではどう考え、どう治療するのだろうということを考えている。これまであまり使う機会が少なかった通導散などを統合失調症に用いてみたりもしている。しかし現代の診療における「攻める」という意味は、例えば傷寒論の時代の汗吐下などとは明らかに違う。
当院には労働問題、労働環境で体調を崩している人がたくさん来る。主訴はだるい、やる気がない、朝起きられないなど「「気虚」のようだが、よくよく話を聞いていくと「夜勤が多すぎる」、「パワハラを受けている」などなど、明らかに具合が悪くなる「原因」が存在するわけだ。こういう人にいくら補う治療をしても無駄である。要するにその原因をどうにかしなければ、治療にならない。すなわち去邪しなければならないのだ。
明らかにその職場は全く環境改善などしないだろうと考えられる人は、とりあえず1、2ヶ月休職させ、傷病手当を貰いながら次の仕事を探させる。そうして「まともな労働環境」に移してあげれば、それで治ってしまう。薬なんか要らない。
しかしそこでつくづく思うのは、こういう患者さんをたくさん診ているが、本当に病んでいるのはこの人たちではなく、実は日本という社会だということだ。深夜勤務が辛いという人は多い。しかし例えば宅急便。なぜ生鮮食料品でもないものを、夜10時まで配達しなければならないのだろうか。コンビニ。歌舞伎町や国分町ならいざ知らず、なぜ住宅街のコンビニが深夜2時3時に営業していなければならないのだろうか。ショッピングモールのテナント。とあるテナントで働いている若い人は、夜遅くまで働くのが辛い。しかし聞いてみると、夜勤帯に来る客はせいぜい二人で、売り上げは2千円にも満たないそうだ。そうすると、その間の人件費、光熱費などを考えたら、明らかに経営としてそれは成り立っていない。経営者に夜勤帯の売り上げと経費を数字にして店長から報告させてみたらどうかと提案したが、「モールがその時間まで営業しろというから早く閉めるのは不可能だ」という。
こういう仕事って、実は社会にとっても必要ないし、経営的にも成り立ってない。それをなぜいつまでもあっちもこっちも続けるのだろうか。それで労働者が次々病んで辞めていく。原因は分かりきっているわけだ。しかしその原因を除去できない。こういう人々にいくら漢方薬を出そうが抗うつ剤やら安定剤やらを出そうが、どうにもならん。
みんな言われたら「それは変だ」と答えるのに、なぜ何一つ変わらないのだろうか。
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投稿日時:2024/03/06
ある人が「討論は良くない。おしゃべりがいい」と書いた。しかし私はこれに、完全に反対する。全面的に、反対するのだ。
薬剤師という職業がある。薬剤師は、疑義照会権を有する。医師の処方箋について薬剤師が疑問を感じたとき、薬剤師は医師に対して疑義照会をする権限がある。
しかし多くの場合、薬局の薬剤師が病院の医師に対し疑義照会をしても、煩がられる。医者が処方したものに何をケチを付けるんだ、という態度を取る医者が多い。
実は私は昔からそそっかしく、処方をしょっちゅう間違える。例えばアムロジン一錠朝夕分二なんて言う間違いを平気でやる。無論これはアムロジン一錠朝一回なのだ。どうもそそっかしくて、私はこういうミスをしばしばやってしまう。
クリニックで働いているのは医療事務と看護師だけで、看護師は看護業務に忙しく、いちいち私の処方ミスなんか覧る暇はない。医療事務は事務職だから、医師の処方箋が間違えているどうかなんて言う判断は出来ない。だから私の処方ミスを指摘したり訂正してくれる人はクリニックにはいない。そこで唯一私のミスに気がついて指摘、訂正してくれるのが薬剤師だ。薬局から疑義照会の電話が来て、1日一錠の薬が朝夕になっていますと言われて初めて、あ、間違えた、と私が気がつく。だから薬剤師の疑義照会は重要なのだ。私ほどそそっかしくなくても、医者が人間である限り、ケアレスミスは避けられない。クリニック内部にそれをチェックする人がいない以上、薬剤師しかそれが出来る人はいない。
しかし、こういう例はまあ、日常的な話である。私が薬剤師に要求するのは、ずっとハイレベルの話だ。
ある内科クリニックから処方箋が廻ってくる。解熱剤、咳止めなど、風邪の治療のための処方箋と想像が付く。ところがそこにグレースビッドというニューキノロン経抗生剤が同時に処方されている。この処方箋について堂々と疑義照会出来る薬剤師がどれほどいるだろうか?
「この処方箋にニューキノロンであるグレースビットが含まれていますが、患者さんのお話を伺うと風邪で受診されたように思われます。風邪はウィルス性疾患ですから細菌を殺す抗生物質は不要では無いでしょうか。それにグレースビッドはニューキノロンです。非常に多種多様な細菌に対して感受性を持ちますが、それ故に乱用すると多剤耐性菌を作る可能性があります。のみならず、ニューキノロンは結核菌に対して中途半端な効果があります。この患者さんは気道系感染症のようですが、結核菌に対して中途半端な効果を持つニューキノロンを処方して、万が一結核の発見を遅らせる可能性はないでしょうか」。
このような疑義照会が出来る薬剤師がどれほどいるだろうか?薬剤師というのは、まさに薬のプロである。診断は医師の仕事だが、薬のプロは薬剤師だ。医師が出した処方箋について薬のプロとしてこのような疑義照会をしたら、逆ギレする医者は多いだろう。俺がこれでいいといっているんだから、薬剤師が何を言う!などという医者がいるであろうことは想像に難くない。その時薬剤師は、きちんと手元にデータやエビデンスを揃え、これこれのガイドラインにはとか、この英論文のデータでは、とエビデンスを示して医師に反論しなければならない。これこそ薬の専門家である薬剤師である。
しかし一方例えば私は、このように反論することがある。この患者は発熱外来を受診し、コロナと判明したが、強い咽頭痛を訴えた。そこで咽頭を観察したら、咽頭はびらんし、かつ白苔を認めた。それでコロナはウィルス性疾患であって抗生物質は不要だが、この患者はそこに細菌性咽頭炎を合併していると診断し、それで抗生物質を処方した。なお細菌性かどうかは今日WBC, Neutro, CRPなどを採血した。採血結果は明日になるが、細菌感染症であれば1日も早く抗生物質を投与する必要があるから、上気道細菌感染に有効と考えられる抗生物質であるサワシリンを本日投与したのだ」。
それは当然、論争になる。ディベートになる。おしゃべりじゃない。真剣な討論になるわけだ。お互いの専門性を掛けて、データやエビデンスや臨床所見をぶつけ合って討論するのだ。
目的ははっきりしている。患者にとってベストな治療を提供する。そのことだ。しかしそれについてお互いがお互いの主張をぶつけ、真剣に討論する。只自己主張をするのではなく、客観的なデータを示して討論する。
討論は、極めて重要であり、それを尻込みしてはいけない。
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投稿日時:2024/03/01
日本は国民皆保険、つまり国民全員が公的医療保険に入っているというのが建前なのですが、実はこれがかなり崩れています。保険証がない、という人がそれなりの割合でいるのです。
これまで会社勤めしていた人。何かの理由で退職した。次が見つかるまで国民保険に入ろうとしても、それまでの収入で保険料が計算されます。すると、急に退職を余儀なくされた人にとってはそれが払えません。結局無保険のまま。特に20代、30代では大病することはほとんどないので、「金ないのにそんなに高い金取られるぐらいなら保険証なんかなくたっていいや」となるわけです。
のちに職が見つかって再び社保に入る時、「この国は国民皆保険だからあなたが加入していなかった時も加入しているはずだった。だからその期間の保険料を払え」といってくるのです。その間その人は保険証を持っておらず、したがって医療保険を使っていないわけですが、「入っていなくてはならなかったはずだから後からまとめて払え」になる。するとその金額がすごいことになってしまう。「こんな大金払えません」というと分割には応じてくれますが、どうしても払えないとなると差し押さえられます。
あれやこれや、この国では建前と実態が恐ろしく乖離してきています。
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投稿日時:2024/03/01ビタミンB群が不足している認知症の人にアリナミン出そうとしたら薬局から「入荷見込みたちません」。花粉症でアラミスト点鼻処方しようとしたら「店にある在庫限りで、入荷見込みないです」。先日は「サワシリン、先ほどの患者さんで在庫つきました」・・・。
医療保険で出せる薬の25%が通常出荷できない状況というのを肌でひしひしと感じます。元はと言えば保険薬価を下げに下げまくったからこうなっているわけです。日本政府は多分一般的な薬は全て保険では手に入らないようにして、それで医療費減らそうとしているのでしょう。皆さんが次の総選挙でまた自民に入れたり、支持政党がないからといって棄権すると、次々に薬が保険では手に入らなくなりますよ。
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投稿日時:2024/02/28
2024年2月27日夕方4時過ぎに当院あゆみ野クリニック発熱外来に患者が受診した。検査をして新型コロナと判明した。その患者は非常な高齢で、宮城県東松島市にある真壁病院に掛かりつけの患者だった。家族が言うには、先に真壁病院に熱があるから受診したいと伝えたところ、「発熱患者の対応は午前中だけだ」と言われ、診察してもらえなかったという。それで家族が困り果て、当院の発熱外来を初診したのだ。
発熱外来でコロナと診断したが、真壁病院からの処方をお薬手帳で見ると、内臓疾患に対する薬が複数出ており、そのような疾患を有していて、かつ非常な高齢という条件も加味すれば、その人は今のコロナであっても重症化リスクが極めて高い患者さんだと判断した。そこで真壁病院に電話し、応対した事務の者に「こう言う人が来て、コロナと診断したがそちらで掛かりつけのようだから、そちらで一旦対応されてはどうか」と伝えた。すると事務の人間が、「残り番の医師がいるので相談したいから、紹介状(診療情報提供書)をfaxしてくれ」というのでそうした。するとややあって先方から電話があり、残り番医師に相談したがコロナ病床が満床だから受けられない」という。私は「いやしかしこの人はそちらの掛かりつけなんだし、これまでの診療情報もそちらにあるのだから、まずはそちらが受けて、救急搬送するなら貴院からなさったらどうですか」と言ったがその事務の人間は「ともかく受けられないという事だから」の一点張りだった。
そもそも残り番の医師がいたということは、それは真壁病院の常勤医である。常勤医が残り番として院内にいながら私という医師に対して事務員に対応させること自体、おかしいし失礼だ。失礼はさておき、その患者の処方から推測するにその人はコロナ重症化リスクが非常に高いのは一見して明らかなのだから、掛かりつけ病院である真壁病院が対応し、真壁病院が有している診療情報と共に高次病院に搬送するならそうすべきであった。なぜ常勤医師がいたのにその様な対応を完全拒否したのか。
たまたまその時院内にいたのがどこかから来たアルバイトの当直医だというならまだ諦めも付くが、常勤医が残り番としているのにそういう無責任極まりない対応をした。これほど掛かりつけ患者に無責任な対応をする病院を、私は未だかつて見聞したことがない。仕方なく私が石巻日赤と交渉し、救急車を呼び、自ら同乗して搬送した。
真壁病院の一連の対応は、何から何まで無責任の一言に尽きる。医療機関としてあり得ないほどの無責任さである。よってここに彼我双方の名を挙げ、公然と告発する。
石巻市
あゆみ野クリニック
院長 岩﨑鋼 -
投稿日時:2024/02/27
オンライン漢方診療初診の人に「漢方薬の保険適応病名は一切根拠がないです」という話から始まって、高血圧の治療は基本西洋医学の薬がベースになるが、ストレスが関係する人には降圧剤に何か一つ漢方薬を上乗せすることもあるよという話をし、さらに腎虚とは何か、血虚とは何かという話をしてフレイルの説明をし、降圧剤を含む西洋医学の治療を続けること、これこれの検査を受けることと勧めた上で八味地黄丸と大防風湯をベースに腎陽虚と血虚血おで痺証という弁償に基づいた煎じ薬を処方した。
これでざっと1時間だから、初回施設使用料7千円はいただくわけです。
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投稿日時:2024/02/26
今保険診療で手に入らない薬が咳止めだけではないというのは前回お話ししました。日本製薬団体連合会が行っている調査では、2024年2月現在保険薬価収載されている薬の内25.9%が「通常出荷以外」になっています。後発品(ジェネリック)に限れば35.8%が「通常出荷以外」です。これだけの薬が保険診療ではまともに手に入らないのです。
今日、衝撃的な情報が入ってきました。最も基本的な抗生物質であるペニシリン、商品名はサワシリン、あるいはアモキシシリンですが、この入荷見込みが立たなくなったというのです。今薬局にある分でおしまいというのです。
咳止めのアストミンの公定薬価、つまり医療保険で決められた値段が一錠5.7円だというのは前回書きました。サワシリン(250mg)1カプセルは先発品でも10.2円です。サワシリン(アモキシシリン)は外来で肺炎を治療するために絶対に欠かせない抗生物質です。これが手に入らないということは、外来では肺炎を治せないということです。肺炎を治せなければ、患者さんは死にます。
ペニシリンは世界で最初に見つかった抗生物質ですが、それは第二次大戦中のことでした。戦前はなかったんです。だから戦前、肺炎で死ぬのは普通でした。治療薬がないのですから。今サワシリンの入荷の見込みが立たないというのは、日本の保険医療は戦前に戻ったということです。しかしアストミン一錠5.7円とかサワシリン1カプセル10.2円では薬を供給できないなんてことは、誰にでもわかる話です。誰にでもわかるということは、政府の役人も政治家もわかっているということです。
すると、政府の意図は見えてきます。まあ、わかりやすい話ですが、政府はこういう薬は保険から外そうとしているんです。以前、漢方薬を保険から外すとか湿布を外すとか試みましたが、皆失敗しました。それで、「絶対に供給できない価格にしてしまえば、自動的に薬は保険診療からなくなる」と考えついた頭がいい役人か政治家がいたんでしょう。保険薬価はあまり面倒くさくなく政府がいじれますから、「絶対薬が供給できない薬価」にしてしまえば、必然的に薬は保険診療からマルっとなくなるわけです。どこかで潮時を見て「こういう薬は自費です」とやるんだと思います。
まあ国民も「医療費は安ければ安いほどいい」と思っているようですし、こういう政府の方針にも多くの人は賛成するんでしょう。日本国民って、集団マゾですから。
そして、これも前回も書きましたが、保険診療から薬が外れた先には、診察も保険から外れるという事態が待っています。だって今、再診料、つまり2回目から医者が患者を診察する費用が730円です。今はこれが基本料金で、高血圧や糖尿病などについては2500円とか追加料金があるから医者はどうにかやっていますが、6月からこの追加は無くなるんだそうです。そうなると、一人患者診察して730円、処方箋発行して680円、合わせて1410円ですということになってしまいます。無論皆さんの窓口負担はその3割とか1割とかですが。患者さん一人診察して1410円では医療機関潰れます。だから必然的に医者も保険診療から抜けるしかない。そういう日が、もう目前に迫っているのです。
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投稿日時:2024/02/26
日本の医療は国民皆保険と言うが、現実的にはそれは既に破綻している。咳止めが無いという話を聞いたことがある人は多いだろうが、現実には解熱鎮痛剤の代表であるカロナール(アセトアミノフェン)の供給も極めて不安定だし、より恐ろしいのは基本的な抗生剤であるペニシリン(サワシリン、オーグメンチンなど)がしばしば手に入らない。今花粉症の季節だが、花粉症の鼻炎症状に著効を示す点鼻ステロイドも供給の見込みが立たない。先日ある人がビタミン欠乏症から認知機能が落ちていることが判明し、アリナミンを処方したがそれも薬局から「入荷の見込みが立たない」と言われた。
日本製薬団体連合会が行っている調査では、2024年2月現在保険薬価収載されている薬の内25.9%が「通常出荷以外」になっている後発品(ジェネリック)に限れば35.8%が「通常出荷以外」だ。通常に出荷出来ていない、と言うことだ。
この理由はいくつか挙げられているが、根本的には医療保険で定められた公定薬価が低すぎるというのが一番の問題だ。「ない、ない」と言われている咳止めだが、一番代表的な咳止めであるアストミン(ジメモルファンリン酸塩)10mg錠の保険薬価が5.7円なのだ。一錠5.7円で薬は作れない。そもそも最終末端価格が5.7円から逆算していくと、海外からこの薬の原材料を買えない。これが最大の薬不足の原因だというのは、「薬局で自費で買う咳止めは充分に供給されている」という事実によって証明出来る。薬局で自費購入する咳止めは当然製薬会社、供給に関わる業者などがきちんと利益が出せる値段で売られているわけで、一錠5.7円ではない。「それなら売れる」というわけだ。
咳止めやビタミン剤なら薬局で自費で買える。しかし日本の今の法律では抗生物質は医師の処方箋がなければ薬局は売れない。ステロイドの軟膏は薬局でも売れるが点鼻ステロイドは売れない。インフルエンザの小児に使うタミフルドライシロップも今ほとんど入荷しない。
おそらく遠からずこうしたものは全て医師の処方箋無しに自費で購入することになると思う。なにしろペニシリンが無ければ肺炎の人は死ぬ。自費だって死にたくないからペニシリンを薬局で買う人は増えるだろうし、それは最初は密かに始まるかもしれないが、命には替えられないのだからいずれ公然と行われるようになるだろう。医者も「診断はするが薬は薬局で自費で買ってくれ」と言わざるを得ない。
つまり、国が公定価格を非現実的なまでに引き下げた結果、製薬業界が保険医療から撤退を始めているのだ。
そして次には、「薬が自費になったんだから診断も自費です」となるはずだ。何しろ医者の診察料が再診で730円なんだから、いつまでも医者がそれを容認するとは考えられない。すでに製薬業界は保険医療に薬を供給しなくなったのだから、医者も再診料730円なら保険では診療しませんとなるはずだ。
それに異を唱えたい人は、いくらでも異を唱えていい。いくらでも製薬メーカーや医者を非難していい。しかしいくら非難しようとも、咳止めは5.7円では作れない。そしてもうすぐ、我々医者が「730円では患者を診察出来ない」と言い出すだろう。その日はそう遠くないはずだ。